2017 Fiscal Year Annual Research Report
エジプトのマウリド:「日常」と接続した「祝祭」における非儀礼的要素の研究
Project/Area Number |
16J00120
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
近藤 文哉 上智大学, グローバル・スタディーズ研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 祝祭 / イスラーム / 人形 / 表象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、以下のように整理される。①マウリド(預言者や聖者をたたえる祝祭)におけるアルーサ(人形)の表象の多様性について、前年度以上に実態を整理することができた。②預言者マウリドにおける砂糖製・プラスチック製アルーサの製造・流通・販売の概要を把握した。③様々なマウリドの現在の様相の調査を実施し、先行研究の記述との共通・相違点を把握した。④日本におけるムスリムへの態度・認識研究の拡大。 まず①について。本年度においては、外国人旅行者や研究者によるアルーサの表象をエジプト人必ずしも持ち合わせていないという点が明らかにされた。すなわち、外国人はアルーサをイスラームに反する「偶像」であると表象する傾向にあるが、エジプト人はそのように考えない、あるいはそもそもイスラーム的な観点からアルーサについて考えたことがないという人々が多かった。 また②の2017年11月末から12月はじめに行われる預言者マウリドの前後の期間では、プラスチック製のアルーサはマウリドの1か月以上前から製造・販売されるのに対し、砂糖製のアルーサは約一か月前から製造が開始されるという相違点が存在することが明らかとなった。 さらに③に関しては、先行研究で近年の縮小傾向にあることが度々言及されてきたにもかかわらず、未だ盛大に実施されているという点を確認した。 ④について。前年度と同様、本年度においても、日本におけるムスリムへの態度・認識研究を行った。具体的には、メディア、情報の内容を軸として、前年度に構築した受容的態度のモデルの拡張を目指した。 総括として、本年度は現地調査、質問紙調査を主として実施し、博士論文執筆のための核となる情報・資料の収集を目的とする年度であった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に実施した3度に渡る1か月以内の調査によって多くの進展が得られたものの、それらを発信する機会、具体的には主要な学会への発表を行わなかったため、「おおむね順調に進展している」と判断する。 昨年度から引き続き実施している作業であるマウリド調査及びアルーサ表象の分析、受容的態度の共同研究は、現地、資料、アンケート調査を行い順調に進展した。マウリドとアルーサの現地に関しては、それぞれの聖者のマウリドが年一度イスラーム暦に準拠して実施される(またアルーサもそれにあわせて販売される)。加えて、詳細な開催日が現地の大多数の人々が認知していないため、日程の調整が困難であった。しかしながら、結果的には、すべてのマウリド(アフマド・バダウィー、預言者、サイイダ・ナフィーサ)調査を実施することができ、充実した結果を得ることができた。 また、資料調査についても、大きな進展があった。エジプトの過去の新聞は、現在、現地図書館での閲覧・複写が非常に困難かつ高価となっている。それを踏まえ、カイロのDar al-Hilal出版社で過去の新聞を調査し、マウリド及びアルーサの記事を収集することができた。また、日本においても、上智大学所蔵のAl-Ahram紙のマイクロフィルムを調査し、同様に記事を収集した。これら資料の分析によって、研究は大きく進展すると考えられる。 受容的態度に関しては、共同研究への参加者を報告者含め2名から4名まで増加した。二度アンケート調査を行い分析したものの、発表までには至っていない。しかしながら、後述のように、2018年度にはこれらの結果を発表する予定である。 以上の、はじめに述べたように、研究内容は大幅な進展がみられたものの、それらを明確な形式で発表することができなかった。従って、「おおむね順調に進展している」と自己評価を行う。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進は、博士論文を執筆行うという大前提をもとに、3点にまとめられる。①マウリドのなかに、アルーサの生産・販売を位置付ける。②アルーサをめぐる諸実践対する人々の多様な解釈を理論的枠組みから説明する。③ムスリムに対する受容的態度の日韓比較の実施。 ①及び②は博士論文と直接関係する事項である。マウリドを含む祝祭において、等閑視され続けてきたのが非儀礼的であると認識された要素であった。この問題に取り組む本研究は、アルーサの生産から販売、そして消費に至るまでを調査することで、マウリドが特定の時間や空間を超えた現象であることを指摘する。さらに、アルーサをめぐる実践それ自体も単一なものではなく、人々の多様な営みの中で日々解釈され続けていることを指摘する。この二段階を踏むことで、マウリドを祝祭という大きな概念枠組みからだけではなく、人々の生活という微細な経験的観点からも同時に説明することを試みる。 なお、②に関しては、タラル・アサドによる概念を批判的に使用して説明する。アサドの概念は、人々のアルーサ理解が、イスラームやナショナリズムなど様々な伝統に即しつつ絶えず変化しているのかを説明するのに有用なだけではなく、中東の人類学においても頻繁に参照されるために重要である。 最後の③については、共同の3名の研究者とともに、日韓におけるムスリムへの認識・態度研究の比較を実施する。基礎となる調査は既に実施済みであり、多文化関係学会(5月)にその内容の論文を、本調査は日本中東学会年報(12月)に投稿予定である。
|