2016 Fiscal Year Annual Research Report
認識・行為・制度をめぐる「不確実性」の理論的および応用的研究
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16J00323
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
加納 寛之 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | リスク比較 / 議論分析 / 解釈的アプローチ / リスクコミュニケーション / 科学と価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に、研究全体に関わる基礎概念や分析枠組みに関する理論研究を中心的に行い、今後の計画の見通しを立てることを中心的に行った。その要点は以下の三つに区別できる。 第一に、リスク研究の中で言及される様々なリスクや不確実性の類型を整理し、各々の不確実性がどのような特徴を備えるのか、他のタイプの不確実性とどのように関係するのかを検討し、そうした質の異なるタイプの不確実性を評価・比較するための方法論の検討を行った。その方法論とは議論の構造に着目したものである。前提・結論・推論の妥当性や、個別の主張が全体の議論の中で備える影響関係に着目するといった解釈的なアプローチから不確実性の評価方法を解明した。この成果は、The 3rd Conference on Contemporary Philosophy in East Asiaで報告した。 この検討を踏まえて、第二に、リスクコミュニケーションの方法論の研究を行った。実際のリスクコミュニケーションでは、しばしば、専門家と一般市民との間でリスクの捉え方が異なるため、議論が噛み合わないことがしばしば見受けられる。こうしたコミュニケーションのすれ違いを解消するためには、リスクという概念が含意する多様な意味と影響を適切に評価し、それらを統合していく作業が大切である。先の解釈的アプローチは、こうしたリスクに対する様々な価値観を整理・比較するための手法として有効であると考えられる。さらに、継時的に意思決定を行うための土台として有効である点も指摘した。この成果は第29回日本リスク研究学会年次大会で報告した。 第三に、科学者の行う様々な価値判断が政策形成にどのような影響を与え得るのかという問題も検討した。具体的には、非認識的価値を取り扱うための制度的枠組みや科学者が政策提言を行う際に遵守すべき規範について精査した。この成果はThe 12th East Asian Science Technology and Society Network Conferenceで報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究全体に関わる基礎概念の検討や分析枠組みを整備することに研究を費やすことを当初から計画していた。大方の見通しが立てられたという点で、研究は「おおむね順調に進展していた」と考えられる。 ただし、研究を進めるうちに本年度の研究である理論的な考察を応用研究と関連させた上で論文としてまとめる必要性を感じ、今年度は論文として研究成果をまとめることができなかった。そのため、以下で記す次年度の研究と並行させながら、これまでの研究も論文の形にすることとする。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は気候変動に関わる科学と政策に研究の焦点を絞る。これまでに考察した分析枠組みと近年の科学哲学・科学技術社会論の議論の検討を踏まえて、国連気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change; IPCC)の各作業部会の取り組みを分析・評価する。IPCCは、人為起源による気候変化、影響、適用及び緩和方策に対し、科学的、技術的、社会経済的な見地から包括的な評価を行うことを目的に設立された組織であり、こうした広範な問題が関わることが想定される組織に関し、本研究では、主に、三つの側面から検討を加えていきたい。 第一に、気候変動科学で用いられるシミュレーションやモデルの認識論・方法論・価値論に関わる問題を検討する。第二に、適応策と緩和策に関し、証拠の作られ方、意思決定の仕方、政策評価の妥当性などの観点から検討を行う。第三に、科学と政策のインターフェイスの設計に関わる問題の検討を行う。気候変動ガバナンスにおいて科学的知見を適切に政策提言へと繋げることは最も重要な課題である。このプロセスにおいて、様々な科学的証拠や不確実性に直面することになる科学者と政策立案者がいかにして協働し、解決へ至るべきなのかを検討する。また、以上の研究を進めることはIPCCの取り組みに関する社会認識論の研究を進めることにも繋がると考えている。 また、次年度はロンドン・スクール・オブ・エコノミクス (イギリス)への研究滞在を予定している。そこでイギリス及び近隣諸国の研究者と学問的交流を深め、意見交流を行うことで、研究の洗練化をはかりたい。
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Research Products
(4 results)