2016 Fiscal Year Annual Research Report
冷却単一イオンを用いた光格子中原子の状態検出と操作
Project/Area Number |
16J00890
|
Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
齋藤 了一 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
Keywords | 化学反応素過程 / イオントラップ / 電荷交換散乱 / 冷却原子 / 散乱断面積 / 極低温化学反応 / 原子・分子物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は冷却単一イオンを用いた原子の状態操作を行い、光格子中原子の状態検出・操作を行う手法の開発を目指すものである。今年度は特に冷却イオンによるプローブヘッドの分解能の向上を目指した冷却手法の実装とプローブとなるカルシウムイオンと検出・操作対象となるリチウム原子間の散乱現象の観測・測定の二点に着目して研究を行った。 プローブヘッドイオンの分解能向上については、イオンを微小領域に局在化させるためにサイドバンド冷却を実装した。検出・操作対象となる原子は光格子により典型的に500ナノメートル間隔で並ぶため、これよりも十分に小さい領域に局在化させることを目指した。サイドバンド冷却実装前は700ナノメートル程度だったイオンの軌道を20ナノメートル程度まで局在させた。光格子中の単一サイトを分解するのに十分な値であり、高精度での原子操作が可能になると考えられる。 二点目についてはリチウム原子-カルシウムイオン間の非弾性散乱の一部である電荷交換断面積エネルギー依存性をカルシウムイオンの内部状態ごとに測定した。エネルギー依存性より測定を行った1ミリ~1ケルビン程度の温度域では散乱メカニズムが古典的なLangevin散乱に従うことを示した。さらに基底状態と励起状態の間に大きな反応性の違いを見出した。海外の理論研究者と共同研究を行い、励起状態の高反応性が状態間の結合に由来することを明らかにした。さらに基底状態の安定性に着目し、イオンと原子の弾性散乱によるイオン温度変化に関する測定を行い、イオンが原子との散乱を通じて冷却されていることを示す証拠が得られた。これはイオンのプローブヘッドとしての精度が散乱に伴って悪化しないことを示している。今後さらに系統的な測定を行っていく予定である。また、原子-イオン間のクエンチング散乱の観測に成功した。これらの散乱現象の詳細を次年度でさらに研究する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の研究計画ではイオンのサイドバンド冷却の実装および原子-イオン間の散乱特性を明らかにすることが目的であった。 前者のサイドバンド冷却については実際に行い、イオンを振動基底状態付近まで冷却することに成功した。さらにこれによりイオンを20ナノメートル程度の領域に閉じ込め、十分な分解能を得ることができたため目標を達成したといえる。またこの内容について国内学会での発表を行った。 後者についてはイオンのプローブヘッドとしての特性を明らかにすることが目的であったが、特に原子-イオン間の電荷交換散乱について成果をあげた。実験だけでなく共同研究による理論解析により反応メカニズムを明らかにした。理論の成果は次年度の解析、実験方針の策定などにも強力に用いることが可能だと思われる。以上の内容で国際誌に論文を掲載し、国内学会でも発表を行った。一方でイオンの温度が原子との散乱を通じて冷却されていることを見出した。しかし、イオン分解能の時間的変化を理解するには至っていない。プローブ精度の検証は本研究提案の手法の開発上重要な要素となるため原子密度を上げたうえでの測定に今後取り組む予定である。また、原子-イオン間の非弾性散乱の一つであるクエンチング散乱を測定することに成功し、プローブの特性を着実に明らかにしつつある。 しかしながら、当初の予定ではこういった散乱現象のスピン依存性およびスピン交換散乱等のスピンが変化する散乱過程の観測と測定を行う予定であったが、こちらは進捗が遅れている。イオン及び原子のスピン状態を操作する手法はすでに準備できており次年度にて速やかに測定する予定である。以上の理由によりおおむね順調な進捗であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果を受けて原子-イオン間の散乱現象を明らかにすることを重点的に行う予定である。具体的にはプローブヘッドイオンの原子との弾性散乱に伴う温度変化を系統的に検証する。これは提案手法の精度を議論するうえで重要な要素になるだけでなく、イオンの新しい冷却手法の開発という点からも意義があるためである。 加えて初年度達成できなかった非弾性散乱のスピン状態依存性およびスピン交換、緩和散乱を詳細に探究する。スピンに関する散乱の情報は提案手法の開発上重要であるうえ、原子-イオン間の非弾性散乱、極低温における化学反応の理解をすすめる研究となりうるためである。共同研究による相互作用ポテンシャルの情報と突き合わせていくことにより原子-イオン間の反応メカニズムを系統的、網羅的に理解できるものと期待する。以上の研究課題を今年度の前半を利用して行う。 年度後半では提案手法であるイオンを用いた原子の操作に関するデモンストレーションを行う。外部電場による制御性の良い高分解検出・操作ツールとしてイオンの有用性を追求する。
|