2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J01084
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小谷 弥生 大阪大学, 人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | ドゥルーズ / 現代フランス哲学 / 時間論 / 芸術論 / 比較哲学 / 能楽 / 演劇 / 仮面 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は本研究課題及び研究実施計画に沿って基礎研究を重ねた結果、以下のような主要研究実績を得ることができた。6月のThe 4th International Deleuze Studies Conference in Asia 2016.(韓国・ソウル大学)では、ドゥルーズが言及する狂気における真偽、その狂気のあり方をドゥルーズが示す精神分裂病と二重性という問題から論じた(口頭発表・英語)。その具体例として日本の伝統芸能である「能」とりわけ世阿弥の能楽論においてシテによって体現される自我意識(「離見の離」や「直面」のような能面の独自性)を事例とし比較研究したことは、極めて意義のある研究成果として世界的に評価を受けた。7月のDeleuze Studies Conference Rome 2016.(イタリア・ローマ トレ大学)では、時間論における「亀裂」とドラマ形式の意義と必然性を明らかにした(口頭発表・英語)。その事例として「能」における複式夢幻能の構造分析を行い「未来」及び「変身」を可能化する時間構造を可視化したことは極めて意義ある成果として世界的評価を受けた。これら発表内容は相補的であり、「能」が単なる新規性を備えた事例としてのみならず、哲学的研究の対象として意義を持つことを国際水準で示し、その新規性・独自性ともに高い評価を受けた実績といえる。9月はパリ大学の特別招聘研究学生としてドゥルーズ研究を主題としたセミネールへの参加、フランス国立図書館を中心とした文献調査、有意義な文献調査及び研究指導を受けることができた。いずれの成果も、時間論を主題とし本能及び亀裂概念の構想を明確にしつつそれを西洋哲学の枠内にとどまらず日本哲学・思想との間における有機的視座と事例を獲得した結果、新規性・独自性双方において極めて意義のある研究実績を世界水準において重ねることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、初年度は『差異と反復』における時間論の解明のため「死の本能」概念及びその背景にあるニーチェ受容及び超克の構想を中心的に解明する予定であった。しかし当初の計画に即した進展のみならず、ドラマ形式の意義、現実化運動としての演劇の位置付けについて、基本構想及びその意義の本質を捉えることができ、さらには日本哲学・思想との比較哲学的構想として、これまで独自に研究を進めてきた能楽を新規性・独自性を備えた研究対象として有機的に展開させることができたことは、今後の研究の骨子となる対象として再認することができ当初の計画以上の成果であった。 また能楽に関する哲学的考察は、例えば和辻哲郎や坂部恵らといった日本哲学・思想史においても重要かつ意義深い主題であり、国内外を鑑みても体系的な研究成果は見られず、本研究が長期的な哲学的課題とする日本哲学・思想の意義を比較哲学の視座より国際的に再布置・評価するという点においても、一定以上の成果を残すことができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には当初の計画通り、ドゥルーズ前期著作における本能論の哲学的射程を解明すべく遂行する予定である。ただし先の研究成果を受けて、当初の年次計画においては広義のドイツ哲学との受容・批判関係の解明を計画していたが、ニーチェ哲学との関係性が計画時の見通し以上に充実した成果を示していること、また能楽という事例の新規性・独自性に対する評価をさらに展開させる可能性について、これら成果に則りドゥルーズのニーチェ受容及び超克のプログラムとしての主題、とりわけ演劇的空間及びドラマ形式に関わる「現実化運動としての演劇」に重点を置きつつ、日本哲学・思想との比較哲学的視座を発展させ、引き続き能楽に関する研究を続ける予定である。 今後も年2回の国際学会での研究発表、パリ大学の特別招聘研究学生として文献調査及び専門研究の第一人者との意見交換や指導を基軸とし、国内外において世界水準において研究を推進する方策である。
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