2017 Fiscal Year Annual Research Report
15世紀イタリアの言語と絵画による理想都市表象とL・B・アルベルティの建築理念
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16J01642
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡北 一孝 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | エクフラシス / 理想都市 / ピウス二世 / ピエンツァ / ジャンノッツォ・マネッティ / ニコラウス五世 / 都市頌 / ルネサンス |
Outline of Annual Research Achievements |
採用2年目の研究成果として重要なのは、10月15日から12月13日にかけてのローマでの資料調査及びローマ大学での在外研究と、3月に採録が決定した論文「ピウス二世『覚え書』の建築エクフラシスと理想都市ピエンツァ」、及びその論文の内容と関連したイタリア語での研究発表(3月25日に大阪大学中之島センター行われた国際シンポジウム「ピエンツァと建築エクフラシス:15世紀イタリアの理想都市の実現」)である。 2ヶ月に及ぶローマ滞在では、マックス・プランク研究所の付属図書館であるヘルツィアーナ図書館、ローマ・フランス学士院付属図書館、ヴァティカン図書館などで、初期近代の手稿の調査、関連する先行研究の分析など、ローマでなければできない作業に集中的に取り組んだ。また論文のテーマとした理想都市ピエンツァを訪問し、建築の構成や詳細の確認、プロポーションの問題、デザインの源泉などについて、精緻な分析を行った。また現地の文書館でも資料調査を行った。そして、研究成果の向上のために、ローマ大学建築学部も頻繁に訪ね、Paola Zampa教授とも面会し、研究内容に関する議論を行った。 3月25日のシンポジウム及び、7月に発行される研究論文での議論は、大きな枠組みでいうならば、15世紀のイタリアにおいて、実際の都市や建築を言葉でどのように表現していたのか、あるいは、新しく建築や都市の計画を構想・批評する際に、言葉はどのような役割を果たしたのか、ということである。 本研究成果ではフィレンツェの人文主義者ジャンノッツォ・マネッティによるフィレンツェ大聖堂と都市ローマに関する建築エクフラシスを読み、その特徴を押さえた上で、ピエンツァの建設を主導した教皇ピウス二世による『覚え書』の建築エクフラシスを分析した。そしてピウス二世が何を理想都市的特質と考え、それをどのように都市ピエンツァに反映させようとしたのかを考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究においては二つの大きな目的があった。 1. 言語と絵画による理想都市表象の目録作成 目録作成は順調に進んでいる。調査が進むにつれて、対象とする絵画や文献の数が増えてきてはいるものの、ローマに長期的に滞在することにより進捗具合も想定よりは進んだ。平成30年度前半に予定している在外研究によってさらに目録の完成度をあげていく予定である。 2. 言語による理想都市表象の分析の重要な鍵となる「エクフラシス」に関して研究を進める 前年度に研究成果として公表した「レオナルド・ブルーニ『フィレンツェ頌』の建築エクフラシスを読む」を基盤にしつつ、15世紀の理想都市論とエクフラシスについて研究を進めた結果、それが発表論文「ピウス二世『覚え書』の建築エクフラシスと理想都市ピエンツァ」へと結実した。特に『覚え書』のラテン語テクストを、修辞学におけるエクフラシスの視点から分析することで、従来の建築史的アプローチからは光を当てることができなかった施主の建築思想にまで切り込んだこの成果は、国際学会での発表を行うなど、広い文脈で共有されるものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降の課題として、ニコラウス五世のローマという理想都市計画を詳細に調べる必要がある。15世紀イタリアの建築エクフラシスは建築的細部が具現化できるほどの詳細な記述ではない。つまりその言葉から建物をそっくり再現できるものではない。しかし注文主が建築に抱いていた強烈なイメージは鮮明に描くことができる。ピウス二世の建築的描写がそのまま建築家に伝えられた注文主の指示であると考えるならば、装飾に関することはほとんど建築家にまかせていたとも考えられる。建築エクフラシスは、当時の都市国家の君主や教皇たちが、都市を拡張・再建し、宮殿を建設するに際し、建築家や技術者にどのように注文を出し、意図を伝達していたのか、そしてどこまでが現場の裁量であったのかを間接的に教えてくれる資料ともなりうる。なぜ一六世紀以降の理想都市が、幾何学的かつ均質な空間を目指すようになったのか、その答えのヒントもそこにあると考えられる。 このような建築エクフラシスに関する研究と、昨年度以来進めている、絵画描写による建築に関する研究を統合することで、本課題の究極的な目的である15世紀イタリアの言語と絵画による理想都市表象を総体的に解釈することができると考えている。
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