2017 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical study for a dimension-dependent non-equilibrium phenomenon in an ultracold atomic gas
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16J01683
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤本 和也 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 冷却原子気体 / スピノールBose気体 / 粗視化ダイナミクス / 乱流 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、冷却原子気体における非平衡ダイナミクスの研究を実施した。具体的な研究テーマは、(1)1次元スピノールBose気体における粗視化ダイナミクスの理論研究、(2)3次元1成分Bose気体における乱流カスケードの実験・理論の共同研究である。 研究(1)では、昨年度から研究を行っていた強磁性相互作用するスピン1スピノールBose気体の粗視化ダイナミクスを理論的に調べた。その結果、特異摂動論に基づいたスピンドメインダイナミクスの解析計算により、この系の粗視化ダイナミクスは新しいタイプの普遍性クラスに属することを明らかにした。さらに、この結果をtruncated Wigner近似を用いた数値計算においても検証して,解析計算と数値計算から得られたスピン相関長の時間発展が非常によく一致することが確認できた。また、実験に対応した数値計算を行い、この新しいクラスを観測するための実験セットアップを提案した。 研究(2)は、3次元の箱型ポテンシャルに閉じ込めた1成分Bose気体における乱流研究であり、実験グループとの共同研究である。私は実験に対応した解析・数値計算を担当しており、本年度は実験を定量的に記述する数値計算コードの開発を実施した。実験では、ポテンシャル形状に依存した粒子数ロスが存在するために、理論モデルであるGross-Pitaevskii方程式に現象論的散逸項を新たに追加する必要があり、その項を実際に考慮することで実験結果を定量的に記述することに成功した。具体的には、この系の乱流カスケードを特徴づける物理量に注目して、実験と数値計算の比較を行った。また、Kolmogorov型のスケーリングを用いることで、乱流状態を特徴付けるべき乗則を導出した。これらは、数値計算と実験の両方で確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究(1)の粗視化ダイナミクスにおいて、新奇な普遍性クラスを理論的に明らかにできたことが大きな研究成果である。従来の粗視化ダイナミクスでは、熱浴と接触した(エネルギーが散逸する)古典系で多くの研究が行われており、そこで幾つかの普遍性クラスが発見されていた。本研究では、冷却原子気体のような孤立系ではエネルギーが保存するために新しい普遍性クラスが現れることを明らかにした。このような指摘はこれまで行われておらず、本研究の重要な結果である。また、この結果を数値計算だけでなく、特異摂動論に基づいた解析計算で得られたことも特筆すべき点である。実際、これらの重要性が認められて、本研究成果はPhysal Review Letterに受理・掲載された。 研究(2)の乱流研究では、実験結果を定量的に説明できる数値計算コードの完成により、実験グループとの共同研究が飛躍的に進み、研究結果を日本物理学会(2017年秋季大会)で発表できた。さらに、数値計算だけでなく、乱流のKolmogorov型のスケーリングを用いて、乱流カスケードを特徴づける物理量のべき乗則が導出できたことも大きな進展である。このべき乗則は数値計算と実験の両方で確認でき、エネルギーフラックスが波数に依存せずエネルギーが波数空間で一様に流れていることを示唆している。冷却原子気体の乱流において、このようなエネルギーフラックスに関する実験結果はいままで報告されていないため、本研究はこの系における乱流カスケード研究を大きく前進させることが期待される。現在、本研究の結果は論文にまとめており、次年度の上半期に論文投稿する段階にある。 以上の理由から本研究課題は「おおむね順調に進展している。」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究(1)の粗視化ダイナミクスに関しては、1次元系における反強磁性相互作用するスピン1スピノールBose気体に焦点を当てた研究を実施して、新しい普遍性クラスの探索を行う。これまでの強磁性相互作用する系では、スピンベクトルがスピン状態を特徴づけた一方、反強磁性相互作用する系では、スピン演算子の二次モーメントであるネマティックテンソルがスピン状態を特徴づける。そのため、反強磁性相互作用する系の粗視化ダイナミクスは、強磁性相互作用する系と本質的に異なる。今後、この系に対応した数値計算を行い、ネマティックテンソルの空間2点相関関数の時間発展を調べることで普遍性クラスの同定を試みる。解析計算では、前回と同様に特異摂動論に基づいた計算を行う予定である。 研究(2)の乱流に関しては、実験で観測することが困難な物理量を数値的に計算することで実験結果をより詳細に調べていく。具体的には、エネルギーフラックス、エネルギー注入量、エネルギー散逸量を系統的に調べ、乱流カスケードの詳細に迫る。また、3次元1成分Bose気体では、運動量空間の粒子が高波数から低波数に輸送されるインバースカスケードの存在が理論的に予言されている。これまでの実験では、低波数から高波数へ輸送されるダイレクトカスケードに焦点を当てていたが、今後はインバースカスケードの観測を計画している。まず初めに数値的にインバースカスケードが現状のシステムサイズで起きることを確認する。次に観測のための実験セットアップを提案する。インバースカスケードを観測するには、エネルギーを高波数側に注入する必要があるため、これまで使用していきた「箱型ポテンシャルの振動による励起」が有効であるかが不明瞭であり、数値計算でこの有効性を検討していく。
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Research Products
(12 results)