2016 Fiscal Year Annual Research Report
定家本『古今和歌集』の成立と展開に関する基礎的研究
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16J01699
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
寺田 伝 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 古今和歌集 / 藤原定家 / 藤原俊成 / 古筆切 / 冷泉家 / 享受史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、主として『古今和歌集』の古筆切を取り扱い、その内容について考察した。そのなかで、冷泉家時雨亭文庫が所蔵する零本の『古今和歌集』について取り上げ、従来ツレをほぼ確認できないとする先行研究の再検討を行なった。その結果、『古筆学大成』所載の「伝藤原為相筆切(六)」がツレにあたることを新たに認定することができ、さらに本文系統について分析すると、その本文は清輔本系統の影響が強いと判断され、冷泉家(ないし御子左家)にそのような伝本が所蔵されていたことの意義について考察した。この成果については、「冷泉家時雨亭文庫所蔵の零本『古今和歌集』考」と題した論文を発表した(『国語国文』第85巻8号、2016年8月)。 なお、その後、当該零本の新たなツレと思しき断簡を入手することができたので、零本と断簡とがツレとして認められるのかどうか検証を行うとともに紹介報告した(『汲古』第70号12月)。このように、古筆資料はこれからも継続して出現することが期待される。その多くは、異本系統の本文であることが多く、後世広く流布した定家本享受の実態を浮き彫りにするためにも、今後とも調査を進めてゆきたい。 また、定家本の成立に深く関わる資料として、長野県の真田宝物館が所蔵する真田本『古今和歌集』(上巻)について調査した。従来は、定家本系統の一本と認定され、それほど注目されてこなかった該本であるが、詳しく本文分析を行なってみるに、俊成本から定家本にかけての中間的な本文をとっており、これを初期の定家本として認定できることを口頭発表において指摘した(第281回大阪大学古代中世文学研究会、2017年3月25日)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、定家本『古今和歌集』の成立を明らかにするうえで、重要な手掛かりとなる資料の研究発表を行うことができた。関西大学図書館が所蔵する建保五年定家書写奥書本等との比較を行うことにより、次年度以降も定家本の成立に関して研究成果を発表することができると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も引き続き、定家本『古今和歌集』の成立と展開を明らかにするために、各種伝存する定家本『古今和歌集』の調査を広く行う。また成立に関して、あわせて調査したいのが俊成本である。定家がその父俊成から相伝した本を用いて、定家本を校訂したことは間違いなく、そこからどのようにして定家本へと発展させたのかを具体的に考察してゆきたい。なお、古筆切の調査収集をあわせて行い、鎌倉期以降の『古今和歌集』享受の実態についても明らかにしたいと考えている。
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