2016 Fiscal Year Annual Research Report
ATLASでの消失トラックを用いた長寿命チャージーノ探索
Project/Area Number |
16J02000
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小坂井 千紘 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 新粒子探索 / 超対称性粒子探索 / 飛跡検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
LHC での ATLAS 実験において、消失トラックを用いた長寿命チャージーノ探索を進めている。 これまではチャージーノの直接生成を狙った解析をしていたが、新たにグルイーノ対生成からの崩壊でチャージーノが生成する事象を狙った解析を追加した。グルイーノの方がLHC での生成断面積が大きいため、グルイーノ質量がLHC で生成可能な大きさであれば、こちらの方が早く発見できる可能性があり、両方の解析を進めることで相補的になる。この解析では、グルイーノとチャージーノの質量比を固定せず、より広いパラメータを探索することとした。 Run 1 では、約 30 cm の飛跡で長寿命チャージーノの飛跡を探索していたが、Run 2 では最内層に IBL という飛跡検出器が 1 層追加され、これを用いてピクセル検出器4層、約 12 cm のより短い飛跡を用いた探索手法を開発した。Wino-LSP ではチャージーノの寿命が 0.2 ns と予想されているため、ピクセルのみの飛跡を利用することによって大幅に感度を上げることができる。しかし、飛跡が短いせいで運動量分解能が大幅に悪化したため、それに対応した解析方法の開発を行った。 2015/2016 年のデータを用いた解析結果は Moriond 2017 にて発表されている。結果は推定したバックグラウンドと一致しており、寿命 0.2 ns のチャージーノについて、直接生成では 430 GeV, グルイーノ対生成では チャージーノ 430 GeV なら グルイーノ 1.6 TeV, 質量差が 100 GeV までなら グルイーノ 1.15 TeV までを棄却した。これらの結果は論文にまとめているところであり、近日中の出版を目指している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は、ピクセル検出器4層のみを使った飛跡を用いた解析手法を確立し、Run2 最初の物理結果を公表することができたので、おおむね順調に進展していると評価した。 特に背景事象の評価において、先行研究から大幅な修正を必要とした。 この探索のバックグラウンドの一つはレプトンの制動放射等により、飛跡が途中までしか再構成されなかったものである。Run 1 では、レプトンがそのような飛跡を作る比率を tag & probe という手法で測定していた。 Tag & probe とは、Zボソンが2つのレプトンに崩壊する事象を用いるもので、一方のレプトンはタグとして厳しい条件を課して確実にレプトンであるようなものを使い、もう一方のレプトンはプローブとして条件を緩くしておいて、タグと再構成した質量がZボソン質量程度になるという条件を入れることによりイベントを選別し、プローブを使って対象としているような特徴を持つレプトンになる比率を測定する手法である。これによって、レプトンとして同定されないようなイベントを対象にした測定が可能となる。Run 1 でのTag & probe は、 プローブのレプトンはトラックのみを使って、タグのレプトンと再構成した質量がZ ボソン質量程度になるかどうかでイベントを選んでいた。しかし、ピクセルのみの飛跡は運動量分解能が悪く、これをプローブとして使おうとすると Z ボソン再構成質量の分解能が非常に悪くなってしまい、イベント選別がうまくいかない。そこで、 Run 2 ではプローブとして、電子の場合は電磁カロリメータのクラスター、ミューオンの場合はミューオンスペクトロメータの飛跡、いずれも内部飛跡検出器に同じ方向のトラックがあるものを使うことによって、イベント選別の問題は解決した。
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Strategy for Future Research Activity |
探索の感度を上げるため、複数の手法を検討している。 一つは、Run1 で行っていた SCT ヒットを要求したトラックを利用した解析である。ピクセル4層のトラックのみを使った28年度の解析では、新粒子の寿命が数 nsec 以上の場合に感度が落ちてしまう。より長いトラックを用いた解析によって、そのような領域をカバーする。 また、より短い、2~3ヒットのみのトラッキングを開発中である。寿命は指数関数的な分布であるため、要求するヒット数が少ないほどシグナル効率が上がる。一方で、背景事象も増えてしまうので、衝突点が飛跡上にあること、トラックが2本あること、検出器内でのエネルギー損失が大きいことを要求するなどして抑えることを検討している。 グルイーノ対生成探索に関しては、トラックが2本あるイベントを用いることで、これらの和が横方向消失エネルギーと一致するはずであるから、それぞれのトラックの運動量を連立方程式にして求めることができる。これを利用して、グルイーノの質量再構成が可能である。消失トラックを用いない一般的な解析では、質量再構成は非常に困難であるので、有望な手法である。 また、トラッキングにおいて衝突点の情報をフィッティングで考慮することも検討されている。ピクセル4層のトラックの場合は、これで運動量分解能を2倍程度にすることができる。 また、スカラートップの対生成からの長寿命チャージーノ生成や、長寿命スカラータウの探索なども検討している。
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