2017 Fiscal Year Annual Research Report
衛星観測データを用いた温室効果ガスの吸収・排出源の同定および原因推定
Project/Area Number |
16J02111
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
葛西 光希 北海道大学, 情報科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 温室効果ガス / 二酸化炭素 / メタン / データ解析 / 時系列変化 / 空間変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,衛星観測により得られた二酸化炭素(CO2)およびメタン(CH4)濃度から,局地的な濃度変化を抽出することで,吸収・排出源を同定することを目的としている.使用している衛星観測データは,温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)およびOrbiting Carbon Observatory-2(OCO-2)による観測により得られている.GOSATは2009年の打ち上げから9年以上観測を続けていることや,同一地点の観測周期(回帰周期)が3日という衛星軌道をとっていることから,時系列変化の解析に適している.一方,OCO-2は回帰周期が16日と長いものの,空間解像度が1.29 km × 2.25 kmと高く,都市などの局地的な排出源について空間分布を解析することに適している.加えて,衛星観測と同等の観測手法で,地上の定点に設置された高精度分光計によるTotal Carbon Column Observing Network(TCCON)データセットも使用した. まず,日本国内3地点(北海道陸別・佐賀・つくば)のTCCONサイトに着目して,観測サイト周辺の衛星観測データについて比較解析を実施し,観測値と月平均値との偏差の空間分布を示した.本研究では空間変化だけでなく,時間変化にも着目している.国内3地点のTCCON観測データのうち,つくばにおいて2012年12月から翌年6月にかけて,佐賀よりも低偏差となる傾向が続いたことを明らかにした. TCCON解析対象サイトを全世界に拡大した.特異な濃度変化は,全球における一般的な傾向である上昇トレンドに反する事象を手がかりに,昨年同月との濃度比較を行うことで抽出した.その結果,2014年8月のBremen(ドイツ)において,2013年8月と比較して-1.12 ppmという低偏差を記録したことが明らかになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
衛星観測により得られた二酸化炭素(CO2)およびメタン(CH4)濃度から,局地的な濃度変化を抽出することで,吸収・排出源の同定を行っている.採用1年度目に行った全球規模での解析に引き続き,採用2年度目には,領域規模での解析を進めた. 衛星観測データと同等の観測手法で,地上の定点に設置された高精度分光計によるTotal Carbon Column Observing Network(TCCON)データセットを使用した.これにより,時間方向に高密度なデータを解析に用いることができるようになったと共に,衛星観測データとの比較・検証作業を進めることができた.日本国内3地点(北海道陸別・佐賀・つくば)のTCCONサイトで得られた月平均値と月標準偏差を相互に比較することで,2012年12月から翌年6月にかけて,佐賀よりもつくばが低偏差となっている事象を解析することができた. TCCON観測サイトは全世界に20ヶ所以上展開されている.すべてのTCCONサイトについて時系列変化を解析し,さらに衛星観測データとの比較解析を行うことで,ドイツのBremenに設置されたTCCONサイトで2014年8月が前年同月よりもCO2濃度が低くなったことが明らかになり,衛星観測データも同様の傾向を示していることを明らかにした.衛星観測データとTCCONサイトデータを複合的に用いる解析を進めたことで,領域規模の吸収・排出イベントが生じた地域・期間を特定できる解析を実施できるようになった.
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Strategy for Future Research Activity |
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)とOrbiting Carbon Observatory-2(OCO-2)による衛星観測は現在も続いており,衛星観測データは随時アップデートされている.解析に使用するデータも随時更新し,衛星観測で新たに得られた吸収・排出イベントを明らかにできるよう,これまでに適用した解析は引き続き実施していく. 今後は,原因推定の部分について詳細な解析を実施する予定である.得られた温室効果ガス濃度の変化が生じた原因を推定するために,人為起源の温室効果ガス排出量に関するデータセット,不完全燃焼により生じる一酸化炭素(CO)の衛星観測データセット,植物の活動量を示す太陽光誘起クロロフィル蛍光量の衛星観測データを用いる予定であり,これらと複合的な解析を進めることで,吸収・排出イベントが生じた原因は人為起源・自然起源に区別することを試みる. また,大気輸送モデルを用いた数値実験を行い,計算結果を解析対象に加える.数値実験は,温室効果ガスの吸収・排出量を計算するとともに,風向・風速などの気象要素に着目してイベント発生時・非発生時における気象場の比較を行うことを目的としている.データセットを複合的に用いて得られた解析結果が,複数の条件設定で実施する数値実験の比較結果からも合理的であることを示すために研究を進めていく.
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