2016 Fiscal Year Annual Research Report
負荷側エンコーダ情報を用いた2慣性系の精密な力制御
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16J02698
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山田 翔太 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | モーションコントロール / 力制御 / 位置制御 / 非線形性補償 / バックラッシ / バックドライバビリティ / 協働ロボット |
Outline of Annual Research Achievements |
現在産業界では,位置制御だけでなく力の制御が求められている。力制御により,産業用ロボットにおいては組立作業などの高度な作業,福祉用ロボットでは人に危害を加えないような柔軟な制御,人間の力をアシストするウェアラブルロボットにおいてはバックドライバビリティの改善等が可能となる。バックドライバビリティとは,負荷側からモータをどれくらい軽く動かせるかであり,ウェアラブルロボットでは人間の動きを妨げないために必須の性能である。 力制御の先行研究において,系の非線形要素を考慮した精密な力制御法は十分に研究がなされていない。このような状況を踏まえ,2慣性系の軸トルクを非線形性を考慮したうえで精密に制御することができる手法を提案した。提案手法の本質は駆動側情報と負荷側情報を利用することで,非線形要素補償を可能にすることである。この制御法の検討のため,評価用の実験装置を製作し,非線形性を補償した軸トルク制御法を実験的に検証した。 次に,負荷側エンコーダ情報を効果的に活用したバックドライバビリティを改善する制御法を提案した。バックドライバビリティを劣化させる主な要因は,負荷側から見た際に減速機によって増幅される駆動側のインピーダンスや摩擦である。バックラッシは本来制御性能を劣化させる要素であるが,負荷側から外力が加わった際,バックラッシの範囲内では負荷側は駆動側と衝突せず空転するため,負荷側のインピーダンスのみを外力は感じ,バックドライバビリティは改善される。提案法は負荷側に駆動側をバックラッシの範囲内で追従させる位置制御をすることで,バックドライバビリティの改善を図った。 本年度の最後には,協働ロボットの制御システムを提案した。提案した制御システムは,協働ロボットにおいて負荷側エンコーダを設置することにより,より精密かつ安全で柔軟な動きが可能になることを示し,実験的にも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目の研究計画は,産業用・福祉用ロボットの力制御の提案であった。具体的には,既に提案していた提案制御手法を基礎として,ギア等に内在する非線形要素,特にバックラッシの同定及びその逆モデルに基づく補償を行い,実験にてその有効性を示すことっを目標としていた。また,この検証のため,新しい実験機を設計・製作する予定であった。 実際に,共振周波数を変化させられ,更にバックラッシを持たせられるような機構を持つ装置の設計・製作に成功し,運用している。また,産業用・福祉用ロボットの力制御を提案し,実験やシミュレーションによりその有効性を評価することに成功した。本研究内容に関しては,アメリカ,サンノゼで開催された国際会議ISIEにて発表を行った。なお,本研究内容はIEEE Transactions on Industrial Electronicsに投稿中である。 更に,産業界で負荷側エンコーダを備える装置が増加していることを踏まえ,負荷側エンコーダ及びバックラッシを利用した高バックドライバビリティ制御法を提案し,その有効性をシミュレーション及び実験で示した。本研究内容は,イタリア,フィレンツェで行われた国際会議IECON2016で発表を行った。また,本研究内容は,電気学会メカトロニクス制御技術委員会優秀論文発表賞を受賞した。 更に,負荷側エンコーダ及びバックラッシを利用した高バックドライバビリティ制御法を含んだ,協働ロボットの制御システムを提案した。その有効性は実験的にも検証されており,研究内容は国際ワークショップSAMCON2017にて発表した。なお,本研究内容はIEEE Transactions on Industrial Mechatronicsに投稿予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は,引き続き,負荷側情報を活用した2慣性系の精密な力制御に関して研究を推進していく予定である。 近年,協働ロボットの需要が急速に高まってきており,産業界においても実際に協働ロボットの生産現場への導入が進んでいる。その結果,協働ロボットに求められる人と機械の協調動作を可能とする制御法の開発が求められるようになってきており,注目が高まっている。 人と機械の協調動作のためには,従来産業用ロボットに用いられていたような位置制御では不可能である。位置制御では,ロボットの動作軌道上に人がいた場合は怪我をさせてしまうため,柔軟な制御が可能となる力制御も求められる。機械が人間の意図に直観的に従うようにするためには,力制御の実装によって,機械のバックドライバビリティを改善する必要もある。したがって,位置と力制御の双方の制御が求められており,更にその二つの制御法をスムースに切り替えることのできるアルゴリズムが必要である。位置制御と力制御を切り替えるためには,切り替えタイミングの判定のために,人と機械の接触力を精密に素早く検知する必要があると考えられる。現在産業界で実際に用いられている協働ロボットは,各関節軸に軸トルクセンサを備えたものが用いられているが,トルクセンサは高価かつ系の剛性を下げるためなるべく導入は避けるべきものである。そこで,エンコーダ情報を用いた軸トルクセンサレス推定法が求められている。今後は,負荷側エンコーダ情報を用いた高帯域な軸トルクセンサレス推定法の開発及びその性能の定量的評価を進める予定である。また,軸トルクセンサレス推定のためにはプラントモデルのパラメータが必要であるが,実際には正確に同定できないことが多い。したがって,このような不可避なパラメータ誤差に対して低感度化を達成する推定法の構築を目指す。
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