2016 Fiscal Year Annual Research Report
旧石器時代人の狩猟活動の季節性を探る-新手法による狩猟対象獣の歯の成長線解析-
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16J02713
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
澤浦 亮平 東北大学, 歯学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 旧石器時代 / 狩猟活動 / 季節性 / ノウサギ / 歯の成長線 |
Outline of Annual Research Achievements |
狩猟季節推定のための方法論の開発に関して、 まず、 現生ノウサギならびに旧石器時代遺跡から出土したノウサギの下顎切歯の樹脂包埋横断切片を作成し、透過型顕微鏡観察による組織形態学的検討を行った。 さらに同一サンプルを、SEM-EDSにより線分析を行った。その結果、象牙質の石灰化の強弱を反映する歯質由来のP、Caの構成比変動では、旧石器時代標本の髄腔~近心縁の中間部で石灰化が顕著に弱い箇所が認められた。 これらの結果は、形態特徴においても元素組成の面でも旧石器時代標本と現生標本の両者が近似したパターンを持つことを示すものである。切歯象牙質から死亡時期を推定する方法論の確立には冬季以外に死亡した個体のサンプルの追加調査も踏まえなければならないものの、この近似性を積極的に評価するのであれば、旧石器時代のウサギ狩猟の季節のひとつが冬季であったと解釈し得る。 この研究に関して、2016年7月に日本動物考古学会大会においてポスター発表を行った。 上記の手法とは異なる新しい方法論を開発するために、東京大学総合研究博物館 放射性炭素年代測定室の協力を得て、宮城県で冬季に捕獲された現生ノウサギを対象に、下顎切歯象牙質中のリン酸塩の酸素同位体比の変化から死亡季節を推定する手法について検討を開始した。 季節性を検出するためには歯の成長線の形成方向に沿って連続的にサンプリングする必要があるが、本年の予備実験によって、連続サンプルによる測定への課題を明らかにすることができた。現生標本よりも断片的な遺跡出土標本にも適用可能なサンプリング法を十分検討した上で今後の実験を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
放射光施設の高分解能マイクロCTによって歯の試験的な撮影は実現したものの、当初想定された視野と分解能の画像を取得することはできず、非破壊的な歯の成長線観察法の開発と実施に問題が生じ、別の手法へシフトする必要に迫られたため。 それに加え、ノウサギの現生標本の収集に関して、冬季に死亡した個体以外を集めることが困難であったため。 ただし、ノウサギの切歯について現生標本と旧石器時代遺跡から出土した標本の切片を作成しSEM-EDSで元素分析を実施する、あるいは、ノウサギの現生標本の切歯について安定同位体比測定を試験的に実施する、などの当初予定はしていなかったものの、有力な分析手法の開発に取り組むことができたため、次年度以降の研究の新しい展開にはある程度の見通しをつけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ノウサギの切歯象牙質の成長線の形成方向に沿った連続サンプリングによる酸素同位体比測定によって死亡時期を推定する手法の開発を進める。また、ノウサギの現生標本の収集に努め、季節ごとに歯の組織形態がどのように異なるのかを調査する。これらの手法や知見を旧石器時代遺跡から出土した標本の分析に適用することで、旧石器時代人の狩猟季節を復元することを目標とする。
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