2017 Fiscal Year Annual Research Report
重要害虫チョウ目ヤガ上科の応用昆虫体系学:マルチ同定ツールの開発と潜在害虫の推定
Project/Area Number |
16J02810
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
綿引 大祐 東京農業大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 系統分類学 / 幼生期 / DNAバーコディング / 識別法 / 果樹 / 潜在害虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
【マルチ同定ツールの開発】 本ツールはヤガ上科の果樹害虫種を対象としているが,近年の高次分類体系の変遷を考慮し,対象分類群を拡充して開発を進めている.いくつかのタクサは成虫の形態・DNA情報の蓄積が終了したため,それらの情報を取りまとめ,マルチ同定ツール(ウェブサイト)の公開と運営を試験的に開始した.成虫の形態・DNA情報の整理を終えた種は,それらの「害虫としての発生状況」・「果樹への被害の概要」・「分布」・「寄主植物」・「近縁種との識別法(海外産の種を含む)」等の情報を取りまとめ,本ツール上に掲載している.BOLDシステムへの登録も逐次進めており,論文等によるオープンデータ化を行った後,本ツールへの連携を図る予定である.
【潜在害虫の推定】 対象分類群(フサヤガ科とヤガ科の複数グループ)の分類学的精査は概ね終了した.得られた成果から潜在害虫の推定に向けた相互比較を行い,概ね想定通りの結果が得られている.一部のグループは海外の研究者と共同で研究を進めており,タイプ標本の取り扱いに問題があったために進捗状況がやや遅れているものの,新たに判明した知見は随時発表を行った.また上記分類群との比較を目的として研究を行った分類群では,以前より分類学的問題が指摘されてきた2種の種間関係を解決した.さらにそのうち1種の雄交尾器形態には顕著な二型が存在することが判明し,進化生物学的にも重要な成果であったことから併せて報告を行った. なお,本研究により潜在害虫の可能性をもつと判断された1種について,その分布域や寄主植物について検討を行ったところ,分布域が近年拡大傾向にあることが判明した.そのため国内分布の整理と,卵・幼虫・蛹の形態情報の取得を行い,学術誌に投稿した.さらに本来の分布域外である関東地方における潜在的な寄主植物も調査し(幼虫の飼育実験),その成果も学術誌に投稿した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【マルチ同定ツールの開発】 対象とする分類群および種のうち,いくつかのタクサについては成虫の形態情報とDNA情報の蓄積が終了した.そのためそれらの情報を取りまとめ,マルチ同定ツール(ウェブサイト)の公開と運営を試験的に開始した.当初の予定では,最終年度末に本ツールの公開を行う予定であったが,データの蓄積状況が良好であったために先行して公開を行った.幼生期のサンプリングと形態情報の蓄積がやや遅滞しているが,幼生期の同定基盤となる成虫の形態およびDNA情報については,前述の通り良好な成果を挙げることができている.そのため研究の進捗状況は,おおむね順調に進展していると判断した.
【潜在害虫の推定】 予定していた対象分類群(フサヤガ科とヤガ科の複数グループ)の分類学的精査は大凡終了した.得られた成果から潜在害虫の推定に向けた相互比較を行い,概ね想定通りの結果が得られている.一部のグループは海外の研究者と共同で研究を進めており,新たに判明した知見は随時発表を行った.タイプ標本の取り扱いに問題があったために進捗状況がやや遅れているものの,現在は共同研究者間で最終的な打ち合わせを行っており,論文の執筆もほぼ終了している.そのため研究の進捗状況は,概ね順調に進展していると判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
【マルチ同定ツールの開発】 過年度の調査を経て,現在サンプリングが終了していない種をピックアップしたところ,それらの分布域は主に北日本と琉球列島であった.そのため最終年度はそれらの地域を中心にサンプリングを実施する.なおマルチ同定ツール本体は,当初の予定通り亜科を目安に整理と構築を進め,すでに公開と運営を開始している.しかし現時点では掲載種数がやや少なく,DNA情報の取得が進んでいない分類群もあることから,分子実験によるDNA情報の蓄積を重点的に実施する.またBOLDシステムへの登録がやや遅れ気味なため,整理が終了したデータから順次登録を行い,同システムとの連携を進める.
【潜在害虫の推定】 これまでにフサヤガ科とヤガ科の果樹害虫を含む2グループを対象に分類学的研究を実施し,得られた成果の比較から良好な結果を得ている.そのため本年度は,同じヤガ上科に含まれるトモエガ科の果樹害虫を含むいくつかのグループを対象に研究を進め,前述の成果との比較および考察を行う.それにより信頼性の高い研究成果とすることを目指す.なおヤガ科の一部のグループについては,国外の研究者と共同研究を行っているが,タイプ標本の取り扱いに問題があることから,本年度はそれらの精査を目的とした標本調査を実施する予定である.潜在害虫の推定に必要な成虫標本のサンプリングは概ね終了しているが,幼生期についてのサンプリングがやや遅れ気味であるため,本年度はそれらのサンプリングを関東地方のほか,主に南西諸島を中心に実施する(基本的には雌成虫からの強制採卵法を用いる).幼生期のサンプリングはマルチ同定ツールの開発とも関連性が高いため精力的に実施する.
|