2016 Fiscal Year Annual Research Report
創薬を指向するプロスタグランジンの新規細胞外放出輸送担体の同定と機能解析
Project/Area Number |
16J03057
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田中 伸明 東北大学, 大学院薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | プロスタグランジン / 輸送担体 / ABCC4 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロスタグランジン(PG)・トロンボキサン(TX)は、がんやアレルギー性疾患をはじめ多様な疾患へ関与することが知られている生理活性物質である。本研究は、PG・TXを標的とする新たな治療法開発を指向してPG・TX細胞外放出過程に着目し、その過程で寄与する輸送担体の同定・機能評価を進めている。今年度はプロスタグランジンE2(PGE2)輸送の駆動力探索と、PG・TX排出輸送担体として知られるATP-binding cassette transporter C4(ABCC4)によるPGD2輸送特性解析を行った。 【研究成果の具体的内容】ヒト肺腺癌由来A549細胞から作製したinside-out membrane vesicleの外側と内側でH+勾配を形成した時(外側:pH6.0、内側pH7.4)、形成しなかった時と比較して(外側:pH7.4、内側:pH7.4または外側:pH6.0、内側:pH6.0)外側に添加したPGE2の取り込みは顕著に増大した。この結果から、PGE2放出にH+勾配依存性輸送担体の関与が示唆された。また、ABCC4過剰発現HEK293細胞から作製したinside-out membrane vesicleを用いてPGD2輸送解析を行い、PGD2がABCC4の新規輸送基質であることを明らかにした。PGD2を産生・放出する肥満細胞株HMC-1細胞と小脳髄芽細胞株TE671細胞にABCC4阻害薬を添加した結果、PGD2放出量はHMC-1細胞では約50%減少したが、TE671細胞では減少しなかった。 【研究成果の意義・重要性等】PGE2輸送実験から、細胞内外H+勾配がPGE2放出に影響を及ぼす可能性が初めて示された。また、ABCC4は肥満細胞株からのPGD2放出に特異的に機能することが初めて示され、ABCC4が治療標的となる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の予定はPG・TXの細胞外放出を担う可能性のある候補輸送担体の探索を行うことを目的として、A549細胞から作製したinside-out membrane vesicleを用いて駆動力の探索、輸送の濃度依存性及び輸送阻害の評価を行うことであった。一部評価系の構築に時間を要し、トロンボキサンB2(TXB2)の輸送実験まで及ばなかったが、PGE2についてはおおむね達成し、H+勾配がPGE2輸送の駆動力になること、ATPや膜電位は駆動力にならないことを見出した。PGE2と同一の評価系でTXB2の輸送実験を行うことが可能であるため、進展の遅れを取り戻すとともに、平成29年度計画にも支障をきたすことはないと考えている。 また、2種類の細胞株を用いたPGD2細胞外放出実験から、ABCC4は肥満細胞株からのPGD2放出に特異的に機能することが示された。この結果から、各細胞種で異なる細胞外放出機構が機能している可能性があり、PG・TXを多量に産生・放出する細胞に対して特異的に作用する細胞外放出阻害薬の創出に向け、細胞種間の相違を詳細に解析することが必要であることを見出した。これは当初予定していた「各PG・TXに特異的な細胞外放出輸送担体の同定」とは別の新たなアプローチであり、「PG・TXを標的とする新たな治療法開発を指向する」研究目的を考えると、期待以上の進展が見込まれる。以上の点を総合的に判断して、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
PGE2を輸送する未知のH+勾配依存性輸送担体の同定に向け、まずA549細胞から作製したinside-out membrane vesicleを用いてより広範囲に阻害薬の探索を行う。阻害薬の候補化合物を1-2点の濃度でPGE2と共存させ、PGE2輸送阻害が観察された化合物について阻害様式を確認する。競合的に阻害する候補化合物を、次の細胞株を用いたPGE2放出阻害実験に使用する。PGE2を産生する複数の細胞に競合阻害薬を添加した時のPGE2放出量の変化と、輸送担体のmRNA発現プロファイルからPGE2を輸送する未知のH+勾配依存性輸送担体の絞り込み、同定を試みる。 PGE2の細胞外放出に細胞内外のH+勾配が影響することも確認する。Na/H交換輸送体阻害薬など細胞内pHを変化させる薬剤をA549細胞へ添加し、PGE2放出量の変化を評価する。これにより、細胞内外のH+勾配を変化させることがPGE2細胞外放出抑制に有用であるかどうかを検証する。 HMC-1細胞とTE671細胞のPGD2放出機構の詳細な解析に向け、PGD合成酵素(PGDS)にも着目する。PGDSには細胞質中に局在する造血器型PGDSと、小胞体中に局在するリポカリン型PGDSが存在する。造血器型PGDSから生合成された細胞質中のPGD2は細胞膜上の輸送担体を介し、リポカリン型PGDSから生合成された小胞体中のPGD2はエキソサイトーシスを介して細胞外へ放出される可能性が考えられる。この可能性を評価するために、まず選択的PGDS阻害薬を用いて、両細胞で2つのPGDSがどの程度機能しているか評価する。続いて両細胞でのエキソサイトーシスの寄与を、阻害薬(Exo1、クロモグリク酸ナトリウム)を用いて評価する。その後、PGDS阻害薬共存条件下でABCC4、エキソサイトーシスを阻害し、PGDSと細胞外放出機構の関連を明らかにする。
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