2016 Fiscal Year Annual Research Report
ファージセラピーによるヒスタミン食中毒制御法の構築に関する研究
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16J03433
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山木 将悟 北海道大学, 水産科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | ヒスタミン食中毒 / バクテリオファージ / ヒスタミン生成菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, 水産物に頻発するヒスタミン食中毒の原因菌となるヒスタミン生成菌に対し, 細菌ウイルスであるバクテリオファージを用いた制御法の構築を目的とし実験を行った。 平成28年度は分離したヒスタミン生成菌溶菌ファージの性状解析を中心に, レセプターの解明や分離ファージのヒスタミン生成菌に対する殺菌能について研究を行った。まず, Morganella morganiiに感染するファージについては, 透過型電子顕微鏡による形態観察の結果, Caudovirales目Myoviridae科に属するファージであることが明らかとなった。また, 菌体表面物質を用いた解析により, 本ファージは外膜タンパク質をレセプターとし感染を行うことが示唆された。本ファージについて, M. morganiiに対する殺菌能を液体培地とマグロ魚肉を用いた系で分析し, ファージ処理が魚肉のヒスタミン蓄積に対する有効な制御法となり得るか評価した。さらに, マグロ魚肉に対する最適なファージ処理濃度を決定し, 魚肉中のM. morganii数とヒスタミン濃度を経時的に測定したところ, ファージ処理によりマグロ魚肉中のヒスタミン蓄積を大幅に遅延することが可能であると明らかとした。この結果は, ファージ処理が魚肉のヒスタミン蓄積の制御に有効な手法となる可能性を示唆する。 さらに, ヒスタミン生成菌Photobacterium damselaeに感染するファージについても性状解析を行った。このファージはカルシウムイオンの存在によりその増殖が大きく活性化され, カルシウムイオンの存在下でP. damselaeの発育を大きく抑制できることを明らかとした。 以上, 平成28年度は, ファージの性状解析に加え, 魚肉のヒスタミン食中毒の制御に対し, ファージ処理が有効な制御法となり得ることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では, 水産物のヒスタミン食中毒に対して, バクテリオファージを用いた手法によりその制御を可能にすることを目的としている。平成28年度は, 強力なヒスタミン生成能を示す腸内細菌科のMorganella morganiiと海洋細菌のPhotobacterium damselaeについて, これらの細菌に感染するファージの性状解析を行い, ヒスタミン食中毒制御にファージ処理が有効な手法となり得ることを示すことができた。この成果は, 現在欧米諸国で広まりつつある, ファージ処理による食中毒細菌制御の適用範囲を広げるものであり, 世界で頻発するヒスタミン食中毒の制御に対する第一歩となる可能性がある。 本研究課題の進捗は概ね計画通りに進行しており, ヒスタミン生成菌に感染するファージも複数株分離することに成功している。本研究の最終目標は, 分離ファージを混合したファージカクテルを調製し, ヒスタミン生成菌ならびにヒスタミン食中毒の制御手法を提供することであるが, 分離ファージの混合によりヒスタミン生成菌に対する抗菌力が増加することも予備的ではあるが明らかとされている。 以上のように, 平成28年度は研究計画が概ね予定通りに進行していることから, 進捗状況は順調であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, ファージカクテル調製のために, ヒスタミン生成菌に感染するファージをさらに複数株分離することとする。新たに分離されたファージに関して, これまでと同様に性状解析を行いファージカクテル調製に必要なファージを選抜する。また, 現在進行中であるが, 分離ファージに対する耐性菌を作出し, その耐性獲得機構についても分析する予定である。また, 分離ファージのゲノムシークエンスもこれまでと同様に行い, ファージの安全性と溶菌酵素遺伝子群の特定を行う。最終的に, 本研究により調製したファージカクテルを用いてヒスタミン生成菌の多種同時制御を試み, ヒスタミン食中毒制御法の確立を試みる。
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