2016 Fiscal Year Annual Research Report
単一細胞解析に向けた方向性結合器型バイオフォトニックセンサの開発
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16J03567
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大久保 喬平 筑波大学, 数理物質科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | バイオセンサ / 細胞 / 導波路 / 屈折率計測 / シリコンフォトニクス / 光干渉計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、1細胞解析を目指した集積化マイクロ光センサの構築を目指す。光集積回路における光スイッチング素子の一つである方向性結合器は非標識バイオセンサの微小化・高感度化に寄与する。方向性結合器は2本の細線導波路が伝搬光の波長程度の距離で近接した構造を持ち、導波路表面に染み出した近接場成分を介してサンプル屈折率を計測する。入射したレーザー光により励起された2つの固有モード(偶・奇モード)の伝搬および互いの干渉により、信号強度は周期的に変化する。このシステムは、方向性結合器とポリジメチルシロキサン(PDMS)ポリマー製のマイクロ流路チップ、レーザー光源、CCDカメラで構成される。 本年度は、コア・クラッド間の屈折率差の大きいSiNおよびSi 細線導波路からなる方向性結合器の評価および多重折り返しによる方向性結合器の集積化の原理検討・デバイス作製・性能評価を行った。ビーム伝搬法および有限要素法を用いた数値計算により、SiN方向性結合器のセンサ特性を算出し、光センサの設計・作製を行った。センサ性能はモデルタンパク質系(ビオチン=アビジン反応)を用いた表面屈折率測定に基づき検出限界を示した。 従来のマッハ・ツェンダー型干渉計では実現困難な100 um2以下のセンサ面積実現を目指し、強い光閉込めによる自由な光配線を可能とするSi細線導波路を用いた折り畳み方向性結合器を作製した。濃度の異なるグリセロール水溶液滴下により生じた屈折率変化による信号強度変化を測定し、折り畳み構造の動作を評価した。1細胞と同スケールの領域への長尺方向性結合器の集積化により、1細胞解析に適した光センサ素子構造が実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1細胞解析を目指した集積化光干渉計システムは細胞分泌物の計測素子と細胞捕捉構造の2つが鍵となる。本年度は1細胞と同スケールへのセンサ素子微小化を大きな課題として捉え、素子開発に注力した。材料として窒化シリコンおよびシリコンを用い、ナノオーダーの高度な微細加工技術を駆使して導波路デバイスを作製した。光学設計のためにシミュレーション計算を重ね、センサ性能を理論・実験の両側面から評価することができた。初期のプロトタイプ作製時に使用したPECVD窒化シリコン薄膜は可視光帯における伝搬性能が悪く、LPCVD窒化シリコン膜への材料変更を余儀なくされたが、期間内に計画したフォトニックバイオセンサの実証実験までたどり着いた。計測素子側の今後の課題は、信号変化の再現性確保や被検出対象をモデルタンパク質から抗原抗体等の実サンプルに近い系での実証実験である。 本研究では1細胞の捕捉・分離技術として微量液滴プラグ機構を想定している。 近年、ガンの早期診断において細胞分泌物の一つであるエクソソームと呼ばれる微粒子が新たなバイオマーカーとして注目されており、本研究のセンサ素子はこの分析に応用できる可能性がある。次年度はエキソソームの分離・分析技術の開発と光センサデバイスへの統合を目標とする。
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Strategy for Future Research Activity |
高コントラスト導波路であるシリコン細線導波路により折り返し方向性結合器の構築およびセンサ機能の実証に成功したため、微量溶液中の低濃度(~10 pM)タンパク質検出に向けた素子改良を進めていく。これまでは、導波路外部の近接場成分を屈折率計測に用いていたが、導波路内部の電場成分の大きい領域をセンサ場として利用できれば大幅な高感度化が期待できる。そこで次年度は、導波路コア部分に周期的な孔を形成した1次元フォトニック結晶型導波路の作製・評価に取り組む。有限差分時間分解法を用いた数値計算により導波路伝搬モードの振る舞いを調べ、方向性結合器のセンサ感度向上につながる構造の最適化を図る。 申請書2年目で予定していた溶液プラグデバイスの開発と細胞搬送・培養実験に取り組む。特別研究員資格の変更に伴い所属研究室を変更し、そこでのマイクロ流体デバイス技術を組み合わせる事で本研究の細胞捕捉構造の開発を進め、統合デバイスの完成を目指す。
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