2017 Fiscal Year Annual Research Report
日本型学校制度が安定的に機能する要件とその変容に関する数理的・経験的分析
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16J03775
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大島 隆太郎 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 教育制度 / 政策実施 / 政策過程 / 比較制度分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度は、2報の論文を投稿し、うち1報は査読ありとして掲載されるに至った。また、現時点で、1報の論文を学会誌に投稿中である。 2報の論文中、論文(査読なし)は、簡単なゲームモデルを用いて、教科書採択の制度が規模(広域採択等)の観点から安定するための条件を検討し、明治期に小学校(義務教育)と中等教育段階とで分岐した要因を論じたものである。モデルの分析から採択規模が大きくなればなるほど、企業による不正が生じやすくなり、安定化のためにはより強い規制を必要とされることが示された。この示唆に照らしたとき、明治期の国定化直前の小学校の採択は府県単一採択で適切な規制が行えていなかったため不正が発生しやすい状況にあった一方、中等教育段階は、在籍生徒数が少なく、法制上、学校単位の採択となっていたため比較的不正が生じにくく制度が安定しやすい状況であったことを分析した。 他方、論文(査読あり)は、28年度に学会発表したものをもとに、「制度の連結」の概念にもとづいて行政学的な観点から安定的な政策実施の成否を分ける要因について論じたものである。これは、本研究の中では、教科書制度と教育課程制度の連結に関する議論に位置付けられるもので、明治期の検定制が崩壊した例と今日の検定制が安定的であることとを比較し、両者の差異には現行制度が教育課程改革に対応可能な構造を採用している点が指摘されることを示した。 29年度の後半は、現行の教科書制度が成立する過程の政策過程についての分析を進めた。これは当初の計画にはなかった点であるが、上記の分析を進める過程でいくつか見落としていた点があり、とりわけ政治学的な視点を盛り込んだ分析が重要であると判断したことによる。この分析における基本的な観点は、これまでの分析で得られた条件について政策アクターがどのように認識し、政策判断がなされたのか、というもので、現在進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2年次までの当初計画では、教員人事制度を含めた学校制度全体の制度の整合性について理論構築と実証作業を進めること、およびこれまでの研究成果の公表を進めることであった。研究成果の公表という点については、今年度の研究実績の概要にも示した通り、2報の論文が公表でき、28年以降に行われた当該研究に関わる論文も累計で4報となった。30年度においても引き続きこの作業を進めていく予定であるので、こちらについては順調に進捗している。 一方、研究全体の方向性に関わる前者については、若干の計画変更を行った。当初の計画において現行の教科書制度の成立過程に関する政策決定過程の分析を改めて行う予定はなかったが、分析の過程で1950年代後半における制度の重要な転機をこれまで正当に評価し得ていなかったことに気づいたため、この分析を行うことになった。そして、この評価に当たっては、これまでの分析に採用してきた方法より、もう少し歴史的な手法による必要があったため、そうした分析を加味した理論枠組みへの修正が必要となった。ただし、修正といっても、これまでの研究によって得られた知見をより強固なものにするための修正であるため、この部分については大きく軌道修正を求められるほどのものではなく、追加で作業が必要になった部分も集中的に取り組むことによって現時点で約8割の分析が完了している。一方で、こちらの分析に重点をおくことによって、当初、計画で予定していた教員人事制度の部分については、当面は28年度に行った理論的な検討にとどめることに変更し、こちらの作業量を軽減することにした。 こうした計画の修正を踏まえて、研究全体の進捗状況を評価するとき、第2年次までの計画は概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、28年度・29年度までに実施した研究で、すでに理論構築や分析が行われているものの、まだ、公表に至っていないものがあるため、これらを取りまとめ今年度中に順次発表を進めていく。特に28年度中に理論構築したものの、29年度中は教科書・教育課程制度に関わる公表の作業が中心となって、それ以上の作業が進められていなかった教員人事制度の部分については何らかの形で公表を行う。 こうした公表作業に並行して、まず、29年度後半から始めた政策過程の分析を完了させる必要があるため、これを優先させて行う。ただし、最終年度となる今年度は、博士論文の取りまとめの作業を予定しているため、この作業工程の中でこれを行う。なお、博士論文の論理構成等は概ね構想が出来上がっているが、29年度の分析の過程で分析枠組みを拡張せざるを得なかった部分があるため、この理論的な整理と研究当初の分析枠組みとの関係を整理していく作業を行う。
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