2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J04159
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
千葉 安佐子 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 金融危機 / 金融規制 / システム上重要な金融機関 / ネットワーク / マクロ金融理論 / システミックリスク |
Outline of Annual Research Achievements |
金融危機以降、個別の金融機関の財務健全性の確保だけでなくその相互依存関係に着目して大規模な危機を防ぐ、というシステミック・リスクの管理への関心が、実務においても学術界においても高まっている。小生は、金融機関が形成する相互依存ネットワークが金融危機の波及にどう影響するのか、また規制によってどのような食い止めが可能か、というテーマの下、大きく二つのアプローチでの研究を行っている。 昨年度主に取り組んだ第一のアプローチでは、金融機関の相互関係を直接的にネットワークとして表したモデルを考えた。本年度は第二のアプローチによる研究を開始した。具体的には、中核的金融機関、周辺的金融機関、家計から成る動学的確率的一般均衡モデルによって説明することを試みている。近年、金融システム上重要な金融機関(SIFI)に対してのみ適用される厳格な資本規制の必要性が議論されるようになったが、その実効性を検証することを念頭に置いている。このため本研究では、中核的金融機関、周辺的金融機関がそれぞれ異なる資本比率規制に直面するという制約を設定している。まずは破綻が予期されない場合のモデルを考え、次に破綻が予期されるモデルを考えた。計算の結果、破綻が予期されない場合、(i)中核的金融機関のみに対する資本規制、(ii)中核的金融機関・周辺的金融機関の両方に対する資本規制、ともに自己実現的な預金流出による破綻を防げることが確認された。資本規制による銀行の投資抑制による実体経済回復の遅延は、(ii)のほうが程度が高いことが資産価格回復のペースによって示唆されることから、(i)と(ii)を比較した場合、(i)が支持されることが示された。破綻が予期される場合については、現在計算を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
博士論文は3本の論文を提出する予定であり、初年度および第2年度でそれぞれ一本目、二本目の論文に対応する研究を進め、政策提言に結び付く計算結果を得ることができたため、現状では、3年間の研究は適切なペースで進んでいると考えている。査読論文についてはまだ発表がないが、現在海外専門誌に投稿して査読中である。最終年度中に一本は掲載することを目標としている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度および第二年度に取り組んだ、中核的金融機関と周辺的金融機関の研究に加え、近年複雑化する規制が金融機関のポートフォリオにどのような影響をもたらすのか、を新たな課題として本年度設定している。金融危機において流動性不足による破綻が相次いだことから、十分な流動性の確保を平時から金融機関に求める規制が定められた(流動性規制)。流動性規制に関する研究は、資本規制の研究に比べて蓄積が少なく、その合理性や影響について探求の余地が十分に残されている。本研究では、資本規制と流動性規制が共存する場合に、それらの規制の厳しさやその他の外部環境の変化によって、銀行はどの程度長期投資を増減させるのか、またクレジット投資を増減させるのかをモデル化することを考えている。将来的には、中核的金融機関と周辺的金融機関といった複数タイプの金融機関を想定することにより、3年間の研究課題として掲げる、金融機関同士の相互作用の存在下での金融危機の拡大の阻止をいかにして規制で実現するかという問いに答えることへの拡張を考えている。 来年度以降は、引き続き、金融機関の相互作用の実体経済への影響を研究するが、エージェント・ベース・モデルを用いたシミュレーションを主に行いたいと考えている。このモデルは、個々の経済主体と、経済主体間の取引を定義して計算結果を見るためのものである。定性的な解釈が困難という難点はあるものの、実際の社会で起こっている、多様な経済主体が行う相互作用をそのまま計算コードに組み込むことを可能にする。近年その有用性が注目されているこの手法を用い、金融機関の規模の大小の違いや、金融業界をとりまく規制の動向が、経済全体にどのような影響をもたらすかを分析する予定である。
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