2016 Fiscal Year Annual Research Report
冗長大自由度を有する身体運動の制御を簡略化する神経システムの解明
Project/Area Number |
16J04573
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
萩生 翔大 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 運動制御 / 運動学習 / 筋電図 / 動作解析 / 腕到達運動 / 神経回路モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
我々の日々の何気ない生活は,全てが身体運動に基づいている.日常動作からスポーツなどの巧みな動作に至るまで,運動はほぼ無意識のうちに生成される.しかし,我々の身体は,莫大な数の関節や筋を有しているため,その制御は本質的には非常に複雑である.にもかかわらず,我々は素早く柔軟に身体を制御することができる.このように,大自由度を有する身体を脳が制御する仕組みについて明らかにすることが,本研究の最大の目的である. 本年度はまず,神経回路モデルを用いてヒトの脳・脊髄内神経回路・筋骨格系の構造をモデル化し,脳が冗長自由度を簡略化して身体運動を制御することが,運動の習得に及ぼす意義について明らかにすべく,シミュレーションによる実験を実施した.冗長自由度を簡略化する制御機構の存在が,運動学習速度を高めることを明らかにした本研究の成果は,現在国際誌に投稿中である. また,ヒトの運動学習が関節運動・筋活動といった高次元空間でどのように処理されているのかを明らかにするための研究を実施した.腕到達運動を用いた上肢での運動学習課題に,筋電図計・モーションキャプチャーシステムを組み合わせた実験系を構築し,実験を行った.莫大な生体信号データ・ヒト身体運動データを処理・解析し,高次元の制御変数である筋活動が低次元的に修正されることによって,ヒトは新しい環境において運動を習得できることを明らかにした.本研究結果は,平成29年度の国際バイオメカニクス学会(International Society of Biomechanics 2017)において評価され,Motor control分野のシンポジウムで発表することが決定している.現在も新たな研究の実施に向けてすでに予備実験を進めており,今後の更なる研究成果が期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
冗長大自由度を有する身体を,脳が簡略化して制御する仕組みについて明らかにすることを目的とした研究に関して,本年度は神経回路モデルを用いた運動学習シミュレーションとヒトを対象とした運動学習実験を実施した.神経回路モデルを用いた実験はすでに完了しており,その成果は現在国際誌に投稿中である.また,ヒト運動学習実験においては,腕到達課題を行うロボットアームのシステムに加え,筋電図,関節位置データを同時に計測するシステムを構築し,予備実験および本実験を実施した.当初は,本実験の実施までが本年度の研究計画であったが,実験を順調に遂行することができたことにより,データの処理・解析および結果の考察まで実施することができた.そのため,本研究結果は,平成29年度の国際バイオメカニクス学会(International Society of Biomechanics 2017)において口頭発表することがすでに決定している. 以上の理由より,当初の計画以上に研究が進展しており,今後もさらなる研究の成果が期待できる状況である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず,現在実施している腕到達課題を用いたヒト運動学習の研究に関して,データの解析および国際誌への投稿に向けた準備を行う.また,冗長性を有する身体運動の制御機序の解明に向けたさらなる研究として,以下の2つの研究を進める予定である. (1)本年度に実施した関節運動・筋活動を捉えた高次元空間でのヒト運動学習の実験結果をもとに,数理モデルを作成し,脳による制御則の推定を行う.これまで構築されてきた数理モデルは,手先などの低次元空間の制御を捉えたものであったため,本モデルにより,脳による新たな身体運動の制御機序が明らかになることが期待される. (2)冗長自由度の制御および運動学習に関して,個人を捉えた解析や実験を実施する.高次元の制御変数を低次元化した制御空間の違い,および低次元空間内での各制御変数の修正速度の違いが個人の運動学習速度の違いに影響しているという仮説のもと,機能的電気刺激を用いて強制的に筋活動パターンを変化させることにより,個人の運動学習を促進させることを狙った研究も計画している. 脳による身体運動の制御機序の解明のみならず,その機序に基づいた応用研究を実施することで,最終的には研究成果を社会に還元し,応用することを目標とて研究を実施していく予定である.
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