2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J04690
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大平 格 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 地球内部の水素循環 / 含水鉱物 / 高温高圧実験 / ダイヤモンドアンビルセル / 放射光X線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、高温高圧実験を手法として、含水プレートの沈み込みに伴う全マントル規模の水素輸送モデルの構築を目的として研究を進めた。 含水プレートは、含水化したカンラン岩、海洋地殻、堆積物という複数の岩層で構成される。しかしながら、プレートが下部マントルまで沈み込んだ場合にどのような含水相が形成され、どの深さまで水素輸送を担うのかは未だ不明である。 上記の点を明らかにするため、放射光施設SPring-8のBL10XUにおいて、レーザ加熱式ダイヤモンドアンビルセルと高温高圧その場X線回折装置を利用した実験を行った。 実験から、含水プレートを構成する岩体のうち、Alに乏しいカンラン岩中では、AlOOHに乏しく圧力温度に対する安定性の低い"δ-AlOOH-MgSiO2(OH)2 Phase H-ε-FeOOH固溶体"が形成されることがわかった。一方、Alに富む海洋地殻中では、AlOOHに富み圧力温度に対する安定性の高い上記固溶体が形成されることが明らかとなった。これは、含水相による水素の輸送領域が全岩組成によって著しく変化することを示す重要な成果である。 また上述の研究の発展課題としてドイツのバイロイト大学・バイエルン地球科学研究所と共同研究を行い、均質なFeを含むδ-AlOOH単相(以下 δ-(Al,Fe)OOH)の合成に成功した。δ-(Al,Fe)OOHが地震波速度異常に及ぼす影響を解明するため、この試料についてカリフォルニア工科大学の研究グループと共同で核共鳴非弾性散乱分光(以下 NRIXS)測定を行った。NRIXS測定は米国の放射光施設Advanced Photon Source のセクター3-ID-Bで行った。現在のデータは下部マントル最上部の圧力までに限定される(< 27 GPa)が、今後はより高圧で実験を行い、下部マントルの地震波速度異常との関連性を検証していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究成果から、沈み込むプレート中で形成される含水鉱物(構造中にH2O分子やOH基をもつ鉱物)の安定性と地球物理学的観測事実との関連性について、重要な知見を得ることができた。 これまで数ある含水鉱物のうち、下部マントル深部で唯一安定に存在することのできるδ-AlOOH-MgSiO2 (OH)2 Phase H-ε-FeOOH固溶体に着目してきた。本年度の実験から、この固溶体の組成が全岩の組成によって大きく変化し、それにより温度圧力に対する安定性も著しく変化することがわかった。カンラン岩中で形成された固溶体は、下部マントル中部(~60 GPa)で無水鉱物と流体H2Oもしくは含水マグマへと分解する。この結果は、下部マントル中部で観測されているマントルの粘性の急激な低下や地震の散乱異常といった複数の現象が、この分解反応により説明できる可能性を示したものである。これは下部マントルにおける水の分布について新たな制約を与える重要な知見であり、研究が十分に進展したことを示すものである。加えて、上記研究課題の発展課題として、δ-(Al,Fe)OOHの合成とNRIXS法による音速測定という海外機関との新規共同研究に着手した。 なお、昨年度までに行った「SiO2-Al2O3ガラスの音速測定」の成果ついて、本年度国際学術誌に投稿し、出版された。 以上より、現在までの進捗状況はおおむね順調であると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
δ-AlOOH-MgSiO2 (OH)2 Phase H-ε-FeOOH固溶体の安定性と全岩組成の関係性をより詳しく調べるため、含水カンラン岩および海洋地殻系における相平衡実験の回収試料について、エネルギー分散型X線検出器付きの透過型電子顕微鏡を用いて組成分析を行う予定である。 また発展課題であるδ-(Al,Fe)OOHの音速測定に関しては、Advanced Photon Sourceへ提出したプロポーザルが継続課題として受理されたこともあり、今年度の夏季に再度実験を行うことが可能となった。次の実験では、下部マントル中部の圧力条件(30-80 GPa)におけるδ-(Al0.87,Fe0.13)OOHの音速測定を試みる。また実験を行うビームライン(セクター3-ID-B)では、鉄のスピン状態を高圧その場で測定可能なメスバウアー分光法も同時に行うことが出来る。ε-FeOOHという含水相の場合、60GPa程度でFe3+のハイスピン-ロースピン転移が生じることが既に知れらている。この転移は格子体積の急減をもたらし、音速にも大きな影響を与えると考えられている。本研究で扱うδ-(Al,Fe)OOHについても、下部マントル中部の圧力条件でスピン転移が生じ、音速などが急激に変化する可能性がある。したがって、NRIXS測定とメスバウアー分光測定を同時に行うことで、δ-(Al,Fe)OOH中のスピン状態と音速の関係性を定量的に評価することが可能となる。この実験を通して、下部マントル中に存在する含水固溶体相が、下部マントルで観測されている地震波速度異常に対してどの程度寄与することが出来るのかを明らかにすることが可能となる。
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Research Products
(9 results)