2016 Fiscal Year Annual Research Report
成年後見の社会化が与えるインパクト――自己決定支援を通した財産管理主体の変化
Project/Area Number |
16J04845
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
税所 真也 上智大学, 総合人間科学部, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 成年後見制度 / 市町村長申立て / 中間集団 / ケアの社会化 / 成年後見の社会化 / 専門職後見人 / 家族 |
Outline of Annual Research Achievements |
一年目となる平成28年度は,家庭裁判所によって選任された成年後見人(等)が,判断能力が不十分な本人の財産管理と身上監護を行う成年後見制度(法定後見制度)に関して,それがどのように運用されてきたのか,という視点から,各自治体における取り組みと展開を明らかにするための調査と研究を行った.なかでも,成年後見制度の運用に顕著な特徴をもつことで知られる岡山県と島根県の取り組みに着目し,フィールドワーク調査にもとづく以下2点の分析と考察を行った.
A)成年後見制度の市町村長申立ての件数がこのところ急激に増加している.ところが,この市町村長申立て件数は各市町村による地域差が大きいことでも知られている.そこで,市長申立て件数が全国的にみて顕著に高い岡山市の取り組みを事例として選択し,成年後見制度の市町村長申立てがいかなるメカニズムのなかで運用されているのかを動態的に明らかにする研究を行った.分析に際しては,「中間集団」の役割に着目することで,福祉社会学の観点から考察することを試みた. B)家庭裁判所の選任する成年後見人(等)の選任比率が,親族から第三者へと急速に転換してきたことが注目されている.こうした成年後見の担い手の変化には,だれが成年後見を担うのか,だれが成年後見を担えるのか,だれが担い手として適切なのか,といった問いがつねに内包されている.そこで,現在あるようなかたちでの成年後見の担い手の変化がいかなるものとして進行してきたのか,それは家族にとっていかなる経験として受け止められてきたのか,という点について,「ケアの社会化」論との接続を図りつつ,家族社会学の観点から分析し,考察した.
なお,上記の論稿は,それぞれ以下の研究論文として刊行された.A)については日本社会福祉学会関東部会『社会福祉学評論』,B)については日本家族社会学会『家族社会学研究』にまとめられている.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画通り,概ね,順調に進んでいる.研究論文の執筆においては海外の学術誌(中国人民大学中国社会保障研究センター)を含む4本の査読付論文への投稿,および掲載がなされた.また,公益財団法人・生命保険文化センターより優秀論文賞の表彰を受けるなど,対外的にも一定の評価を得られる研究活動になっている.さらに,学術論文の発表に留まらず,研究成果のアウトリーチ活動の面においても下記のような成果がみられた.
①福祉クラブ生活協同組合・成年後見サポートワーカーズコレクティブあうん理事総会での基調講演「これからの成年後見制度の展望と福祉クラブ生協による成年後見支援」(福祉クラブ生協本部きらり港北,2016.5.14). ②東洋大学福祉社会開発研究センター障害ユニット・成年後見制度を見直す会共催シンポジウム「成年後見と自己決定――成年後見制度促進法付帯決議をめぐって」における報告者兼コーディネーター(東洋大学125記念ホール,2016.6.19). ③公益財団法人・生命保険文化センター優秀論文賞受賞講演「生命保険の支払請求において成年後見制度の利用が果たす機能」(如水会館,2016.9.7). ④公益財団法人・ひと・健康・未来研究財団での研究発表「第三者の成年後見人が求められる社会とその社会的要因に関する研究」(メルパルク京都,2016.11.7).
|
Strategy for Future Research Activity |
成年後見制度の利用者が増加し,成年後見の担い手が第三者へと急速に変化するなかで,成年後見制度の利用が人びとの生活にも少なからぬ影響と変化を及ぼしている.平成28年度は,これらを成年後見の社会化が人びとの生活に与える「インパクト」として,家族の家計管理,およびケアに関する契約,ケアマネジメント主体のあり方などの変化について,分析と考察を進めてきたが,研究の進展にともなって,新たに以下の問題意識が次なる研究課題として浮かび上がってきた.
すなわち,これまで,成年後見に相当する役割は,本人の周囲にある身近な人びとによって担われてきたものであった.それが,近年では,社会変動に連動した担い手不足の問題などもあって,成年後見制度という法制度を用いることで,形式的な解決が図られるようになってきた,というように理解されている.しかし,こうした前提は果たして,離島や過疎地域においても同様なのであろうか.これらの地域では,成年後見に相当する生活上の金銭管理や身上監護の役割は,旧来のように生活の中で何らかのかたちで回収されているのだろうか.あるいは,それらの地域でも生活課題の解決のために成年後見制度が持ち出されるのであれば,それはどのような場面においてであるのか,といった問題関心についてである.
そこで,二年目となる平成29年度は,離島や過疎地域での取り組みを中心に,財産管理と身上監護のあり方を検討し,これらの地域での成年後見制度の位置づけを比較することを目的として,インタビュー調査と参与観察を中心とした研究を進めることを計画している.
|