2016 Fiscal Year Annual Research Report
行動経済学的知見と構造推定を利用した購買選択モデルの開発と応用
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16J05118
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
加藤 諒 慶應義塾大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 構造推定 / 動的計画法 / 習慣形成 / ブランド選択モデル / 行動経済学 / ベイズ推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、行動経済学的な知見と構造型モデルを用いて、非合理的な行動の存在が知られる多様な消費者の行動を定量的に把握するとともに、実用的な政策シミュレーションを行えるモデルを開発することを目的としている。当該年度は研究計画の初年度であり、「プロスペクト理論に基づく消費者の慣習形成・飽和を適用した購買選択モデルの構築」と,これを発展させた「新製品の購買による学習行動の構造推定と最適な新製品値下げ戦略への応用」の研究を行うことを計画として掲げ、研究を行ってきた。 研究成果は国内の関連学会において学会発表や論文投稿を行っていくことを計画していたが、概ね計画通りに遂行されたと考えている。以下に、具体的な状況を述べる。 まず、当該研究については、「Forward-lookingな消費者の慣習形成・飽和を考慮したブランド選択モデルの構造推定」、「Forward-lookingを考慮した消費者の選択行動の構造推定」をその予備的な研究として、日本マーケティング・サイエンス学会にて、特別研究員採用開始期間前の2015年度に報告を行っている。ここでは、「研究奨励賞」を受賞しており、当該研究の必要性が認められた。 2016年度前半においては、上記発表の論文化に向けて、先行研究のレビューや実データの取得、モデルの発展を行った。そして、2016年度の中ごろにかけて、これらの研究を踏まえた論文の執筆・投稿を行っており、「Forward-lookingな消費者の慣習形成・飽和・学習を考慮したブランド選択モデルの構造推定」として、査読付き単著論文が2016年『マーケティング・サイエンス』において採択・出版されている。また、公式な学会等での研究発表ではないが、10月末にノースウェスタン大学において、U.Bockenholt氏と研究に関する議論を行い、貴重な意見の収集ができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度における研究への取り組みに関しては、期待通り研究が進展したと評価できる。まず、前年度に当該研究の予備的研究を2度国内学会において報告を行い、その研究成果が研究奨励賞を受賞している。また本年度半ばにおいては、その発展した研究成果として査読付き論文が『マーケティング・サイエンス』誌に採択されている。これらの事実は、当該研究の有用性を示すものであり、当初の計画通り論文が採択されていることから、研究課題は順調に遂行されているものと評価できる。 2016年度末には、2017年度の研究計画の実施に向けて、統計的手法の可能性の探索や、実データの取得、最新の研究のレビューの蓄積を行っている。更に近年、これまでとは全く異なるベイズ的な計算手法が発達しており、構造モデルの推定に対して適用可能であると考えられる。そのため、本研究においても当初の計画よりもより効率の良い手法が適用となる見通しであり、2017年度以降さらなる研究の発展が見込まれると考えている。 また、構造モデルの推定に伴う、変数の内生性やデータの欠測に対処するための研究が必要となったため、これらに関する研究を追加的に行っており、今後の構造モデルの推定の際に統合し、応用する予定である。更に、消費者の行動理解のための研究として、分担執筆による著書の執筆や、論文誌への投稿を別途行っており、今後の研究にこれらの研究で得られた知見を統合する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、平成28年度から引き継いで研究Ⅱのモデル構築と実データへの適用を行い、更に「実店舗でのショールーミング学習によるオンライン購買への構造推定の応用(研究Ⅲ)」を行う。ここでは研究ⅡやⅢで、購買履歴データや通常得られる顧客の属性データに加えて、行動経済学的な指標や、調査店舗外での購買の状況などを知る必要があるため、これらを得るために顧客への調査を行う。更に、会員のデータのみを用いることによる選択バイアスを排除するため、会員以外の顧客への調査も行う。 研究成果は国内の関連学会(日本マーケティングサイエンス学会や行動計量学会等)に加えて、INFORMSなど海外での学会発表を行う予定である。更にMarketing Science誌やManagement Science誌など海外誌への投稿を行う。また、引き続いて最新の関連する研究分野の動向も、関連図書を購入することなどによって随時確認を行う。 更に当該研究では、モデルとして直接効用モデルを用いる予定であるが、その推定法の改良も行う必要がある。これまでは直接的なベイズ推定法による母数の解の探索が行われていたが、推定に膨大な時間が必要であり、また購買データのような離散データを用いる場合には、推定値にバイアスがある可能性がある。そこで、近年発達している従来型のベイズ推定法とは異なる新たなベイズ推定法を用いることを予定しており、これに係るプログラムの作成や推定量の妥当性の確認を随時行っていく予定である。
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