2016 Fiscal Year Annual Research Report
TPCを用いた24Mg原子核におけるアルファ凝縮状態の探索
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16J05592
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
村田 求基 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 実験核物理 / アルファ凝縮状態 / TPC |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核が同一の最低エネルギー準位に凝縮したアルファ粒子の系として記述されるアルファ凝縮状態は、軽い核子数4nの自己共役原子核の基底状態や励起状態として発現すると理論的研究によって予言されている。本研究の目的は、24Mg原子核を対象としてアルファ凝縮状態の探索を実施し、アルファ凝縮状態の普遍的存在を明らかにすることである。 原子核の励起状態の崩壊様式は、励起状態の性質や構造についての情報を含むと考えられている。特にアルファ凝縮状態の崩壊では、多数の低エネルギーアルファ粒子を放出する過程が支配的であると考えられる。したがって、本研究ではアルファ凝縮状態同定のための指標として、24Mgの励起状態からのアルファ崩壊確率とアルファ粒子の多重度を用いる。広範囲に放出される低エネルギーアルファ粒子の高効率検出は従来の検出器系では一般に困難であるため、本研究では低エネルギーアルファ粒子の高効率計測のためにガス検出器の一種であるTPC (Time Projection Chamber) を開発し実験に使用する。24Mg原子核の励起状態を生成するための反応標的をTPC内部に設置することで、全ての崩壊粒子の検出を目指す。 平成28年度はTPCの性能向上ための検出器開発と崩壊粒子検出効率の向上のための実験条件の検討を実施した。 TPCのドリフトケージの構造材の材質をPEEK樹脂からセラミックに変更することで剛性を向上させ、TPCの位置分解能を低下させる原因となる構造材の変形を低減することに成功した。また、TPC内部に充填する検出ガスの循環システムを導入することで、ガス組成と全圧の長期的な安定を実現した。 検出器の幾何学的配置に応じたモンテカルロ・シミュレーションを実施し、TPCと相補的に使用するSI半導体検出器の設置方法や検出ガスの組成等を崩壊アルファ粒子の高効率検出のために最適化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を遂行するためには、24Mgの励起状態から放出される低エネルギーアルファ粒子を検出するためのTPC検出器の性能向上が不可欠である。特に崩壊粒子の識別と全エネルギーの測定のためには、TPCによる荷電粒子飛跡の位置検出分解能の向上と性能の安定化が重要である。 平成28年度は、TPCにおける位置分解能向上のための構造材の材質の再検討と更新を実施した。更新以前に採用されていたPEEK樹脂は、負荷により変形で検出器内部の電場構造の一様性を損ない、飛跡の位置分解能を低下させることがわかった。そこで、材質をセラミックへと変更し構造材の剛性の向上を図った。構造材材質の変更にはセラミックのもつ脆性のための困難がともない想定以上の時間を要したが、設計や組み立て方法の見直しを行い試行錯誤を重ね完成に至った。 また、実験期間中の検出ガス組成の安定化のためにガス循環システムを導入した。実験期間中を通じて検出器内部のガス組成と全圧が安定性は、荷電粒子によってガス分子から電離された電子を収集することで飛跡検出を行うTPCにおいて重要である。今年度導入したシステムは、TPCへのガス供給系配管を通じて流量と組成比を一定に制御したガスを供給しつつ、TPCからのガス帰還系配管を通じて真空ポンプを用いてガスの排気を行うものである。本システムによるTPCの長期間安定性を、ガスの組成と強い相関を持った量である電子のドリフト速度測定により確認した。 24Mg原子核の励起状態から放出される低エネルギーアルファ粒子の高効率検出が、アルファ凝縮状態の同定のために重要である。崩壊粒子検出効率を向上するために、TPCと相補的に使用するSi半導体検出器とTPCの幾何学的配置やTPCに使用する検出ガスの組成や全圧等の条件を変化させた際の検出効率の変化をモンテカルロ・シミュレーションを用いて見積もり、実験条件の最適化を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、前年度に引き続き実験条件の検討を実施し実験計画の具体化をすすめる。そして、実験計画を大阪大学核物理研究センターへ提出し、実験のための加速器のマシンタイムの獲得を目指す。提出した実験課題が採択された後は、実験施設のビームラインへの検出器インストールのために必要な資材の調達やデータ収集システムの構築を行い、すみやかに実験準備を完了する。実験完了後はすみやかにデータ解析を行い、TPCの飛跡解析から24Mgの励起スペクトルを抽出し、さらに励起状態のアルファ崩壊の事象数と多重度についての情報を引き出すことでアルファ凝縮状態を探索する。
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