2016 Fiscal Year Annual Research Report
金属多層膜における反対称交換相互作用(ジャロシンスキー守谷相互作用)の電圧制御
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16J05624
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
縄岡 孝平 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 磁性体 / 金属 / スピン起動相互作用 / 電圧効果 / 反対称交換相互作用(DMI) |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は当初、金属磁性薄膜における界面DMIの先行研究例を参考にし、金属磁性多層膜の下部層の材料を最適化することで研究計画の一つ目であるDMIの電圧変調量の増大を実現しようと考えていた。しかし、金属薄膜において電界が印可されるのは絶縁層(MgO)と接している、僅か一原子層程度であることを考慮に入れ、電圧が印可される界面の材料を最適化することにした。具体的には金属磁性多層膜V/Fe/MgOのFeとMgOの界面にスピン起動相互作用が大きいことで知られるPtを1原子層挿入することで界面DMIの電圧変調量の増大を目指した。結果としてPtを1原子層挿入することで界面DMIの電圧変調量が3倍大きくなることを明らかにした。また報告者はPt挿入層の膜厚依存に関する実験を行うことによって、1原子層が最も効果を増大させることを明らかにした。一方で他にスピン起動相互作用が大きいことで知られるIrを使用した際。、こちらでは効果が著しく減少することを明らかにした。さらにこの効果はFeの膜厚、MgOの膜厚を調整することで0.75μJ/m2と非常に大きな効果になりえることも明らかにした。このように当初計画していた薄膜作成案とは異なるが、それから予期されるものよりも非常に大きな界面DMIの電圧変調を得られることを示した。平成28年度は予定していた通り、界面DMIの電圧変調を実現し、Ptの膜厚依存とIrとの対比実験による材料依存を得ることができた。平成29年度は当初計画していた通り上記の実験結果を踏まえたうえでDMIの発現及びその電圧変調の物理を解明することに注力することを目的とする予定である。Ptの膜厚依存の実験からDMIの電圧変調が指数関数的に減少する振る舞いを得ることができたので、Pt内に誘起される電気分極とスピン起動相互作用の結びつきという観点から研究を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
報告者の研究内容は金属多層膜における反対称交換相互作用(ジャロシンスキー守谷相互作用)の電圧変調に関するものである。これは結晶内における空間反転対称性の破れとスピン起動相互作用により発現する効果の電圧変調である。特に金属磁性多層膜では薄膜界面における空間反転対称性の破れと、磁性層のスピンが近接層にある重金属に由来する大きなスピン起動相互作用に基づき、界面の効果として発現することが知られている。報告者の研究はこの界面に由来する反対称交換相互作用の材料開発による効果の増大、及びその物理機構の解明である。 今年度は特に結晶の素材変更による効果の増大を試みた。具体的には鉄と酸化マグネシウムの界面を持つ金属磁性多層膜に対し、電圧が印可される鉄と酸化マグネシウム界面にスピン軌道相互作用が大きい材料として知られる白金1原子層を挿入することにより効果の増大を試み、結果として電圧変調量が3倍程度増大されることを明らかにした。また、白金数原子層の膜厚変更により1原子層が最も効果を増大させることを明らかにした。さらにこの効果は界面の効果であり、印可電界の大きさに依存するということを考え、鉄の膜厚を酸化マグネシウムの膜厚をとすると~mJ/m2と金属磁性多層膜で電圧非印可時に報告されている大きさとほぼ同程度まで大きくできる見込みがあることを明らかにした。この白金の結果に対し、一方で他にスピン起動相互作用が大きいことで知られるイリジウムを使用した際、こちらは効果が著しく減少することを明らかにした。これらの成果は当初想定していた研究計画の期待を大きく上回る進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は当初計画していた通り、薄膜構造の最適化を図ることにより金属磁性多層膜における反対称交換相互作用の電圧変調を増大させることができた。また同時に鉄と酸化マグネシウムの界面に挿入する白金の膜厚を1原子層よりも厚くすることで電圧変調量が著しく減少すること、イリジウムを挿入すると1原子層の膜厚から電圧変調量が減少するということを明らかにすることができた。そこで平成29年度はまず、当初の計画通り金属磁性多層膜における反対称交換相互作用とその電圧変調の物理機構の解明を行う。バルク磁性体における反対称交換相互作用の電圧変調はそれによってもたらされる電子分極に依存するものだとされる。金属磁性薄膜においても同様に白金に誘起される電気分極に依存すると考えられる。現在得られた結果は白金膜厚を厚くするほど指数関数的に電圧変調量が下がるというものであった。これは電気分極が鉄と白金の界面に局所的に誘起されているということを示唆する結果であると考えられる。そこで本研究ではモデルを立て、同様に白金のスピン起動相互作用により電気分極が発現するか、それは磁性を持つ鉄と白金の接合界面に局所的に表れるのかを理論的に確かめる。同時に白金で見られた電圧変調の増大がイリジウムでは見られなかった原因に関しても引き続き研究を進めていく予定である。またこの金属磁性薄膜におけるDMIの電圧変調を応用し、磁性の最小単位の一つとして知られるスキルミオンの生成、消滅の制御、及びそれを用いた計算のデモンストレーションの実現を視野に入れ研究を進める。
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