2016 Fiscal Year Annual Research Report
エスニック空間をめぐる戦略的都市経営と社会・文化的機能の変化
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16J05631
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
清水 沙耶香 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 都市 / 移民 / エスニシティ / 企業家主義 / カナダ / トロント |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、(1)トロント市の都市政策に関する資料の整理と、(2)これまでの現地調査で得られた聞取り調査等の結果の分析作業を中心に取り組んだ。具体的な作業としては、(1)は、既存研究と行政資料をもとに、1900年以降のトロントの都市計画の実施過程および都市構造の変化を時系列的に整理した。(2)は、行政への聞取り調査結果をもとに、トロント市の商業的自助組織であるBusiness Improvement Areaの活動の目的・実施状況を確認した。 また、平成27年3月にトロント市で行った本研究に関連する調査で想定以上の成果を得ることができたため、平成28年度は、その成果をふまえて研究全体の枠組みを見直す必要が生じた。よって、当初の平成28年度の研究計画に加え、以下(3)~(5)の作業を追加的に実施した。 (3) 平成27年3月の調査で入手した1946年・1961年・1971年・1981年・1990年・2001年のリトル・イタリー地区の電話帳(商業店舗名と居住者氏名が記載されているもの)を用い、同地区の商業店舗・居住者の変化に関するデータベースを作成した。(4) カナダの主要新聞2紙(Toronto Star紙・Globe and Mail紙)のアーカイブを用い、1946年・1961年・1971年・1981年・1990年・2001年に掲載された2紙すべての記事から「Little Italy」という語を含む記事を抜粋し、データベースを作成した。(5) 作業(3)(4)をふまえ、リトル・イタリー地区の商業店舗・居住者の変化と、カナダ社会のリトル・イタリー地区に対するまなざしの変化という視点から、同地区の変遷の検討を試みた。(5)の作業は未完了であり、平成29年度も継続して実施する。 以上の成果の一部は、日本地理学会秋季学術大会の一般発表および研究グループで発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗状況としては、研究枠組みの見直しにともない、研究計画に一部変更が生じたが、おおむね順調に進展している。 具体的には、平成27年3月に実施した現地調査の成果を受けて、下記に記載した経緯から、研究の枠組みを見直した。それにともない研究計画を一部変更したことで、当初の平成28年度の年間計画として記した作業内容の一部は未完了である。しかし、当初の年間計画としては予定していなかった追加的作業から、本研究の目的の達成に通じる大きな成果が得られたため、全体としては、おおむね順調に進展していると評価できる。 研究の枠組みを見直した経緯は、以下のとおりである。本研究の目的を達成する第一段階として、エスニックな要素で特徴づけられた空間(以下、「エスニック空間」)が、移民の相互扶助の場から、いわゆる観光地へと変化するメカニズムを明らかにする必要がある。そのメカニズムについて言及した既存研究の多くは、エスニック空間の観光地化を「新自由主義的動向」の一部として説明してきた。しかし、既存研究の検討と対象地に関する情報を収集するなかで、新自由主義的動向は1980年代以降に生じた動きであり、その影響は一律ではなく、各地のエスニック空間がどのような歴史的経緯を経てきたのかによって異なる可能性が示唆された。それゆえ、エスニック空間が観光地化したメカニズムについて考察する前段階として、カナダ特有の状況を含め、対象地とするエスニック空間の歴史的経緯を精緻に把握する必要があると考えた。以上をふまえ、「研究実績の概要」に記載した作業(3)~(5)を当初の年間計画に追加して実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず、平成28年度に実施した作業(1)~(5)の内容をまとめ、国内学術雑誌に投稿する。また、平成28年度の年間計画のうち、完了することのできなかった社会・文化的側面の実証的分析に必要な調査対象団体の選定と、団体への調査協力依頼を行う。さらに、平成28年度の作業を進めるなかで、本研究の調査結果を考察する際には、国・自治体レベルで実施されたエスニック集団に関する政策の影響を考慮する必要があると示唆された。それゆえ、当初の平成29年度の研究計画に並行して、カナダおよびトロント市の移民政策・多文化主義政策の実施過程を整理する予定である。
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