2017 Fiscal Year Annual Research Report
エスニック空間をめぐる戦略的都市経営と社会・文化的機能の変化
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16J05631
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
清水 沙耶香 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 都市 / 移民 / エスニシティ / イタリア系移民 / カナダ / トロント |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、エスニックな要素で特徴づけられた空間(以下、「エスニック空間」)は、従来研究で指摘されているような移民の相互扶助の場としてだけでなく、多様な主体によって管理・運営される都市経営的側面と、同胞者の社会的紐帯の拠点という社会・文化的機能をもつ場へと変化しつつあることが示唆されている。本研究は、そうしたエスニック空間の変遷メカニズムを明らかにすることを通して、エスニック空間における都市経営的側面と社会・文化的側面の結び付きを解明することを目的としている。 本年度は、昨年度に作成したリトル・イタリー地区の電話帳データベース及び同地区について記載された新聞記事データベースを用い、同地区がどのように変化してきたのか分析・考察した。具体的には、(1)電話帳の分析から明らかとなった1946年・1961年・1971年・1981年・1990年・2001年のリトル・イタリー地区の商業店舗・居住者の移り変わりと、新聞記事の分析から明らかとなったカナダ社会における同地区に対するまなざしの変化を分析・考察した。その上で、(2)同地区において、エスニック空間が、移民の相互扶助の場から、いわゆる観光地へと変化するメカニズムを明らかにすることを試みた。 (1)・(2)で得られた成果は、第二次大戦後のリトル・イタリー地区の変遷メカニズムを、同地区に実際に存在した商業店舗・居住者の移り変わりに着目して明らかにしたものであり、都市経営的側面と社会・文化的機能の結び付きを捉える上で重要な成果といえる。 なお、(1)・(2)の成果の一部を新潟地理談話会で発表した。また、成果の詳細な内容については、国内学術雑誌に論文として投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、病気による研究の中断に伴い、実施計画の一部が遂行できなかった。そのため、研究計画の進捗は、やや遅れていると自己評価した。 本研究は、理論的研究と、都市経営的側面及び社会・文化的側面の実証的分析から構成される。なお、上述の平成29年度に実施した(1)・(2)の成果は、当初計画していた実証的分析を補強するために追加で行ったものである。 理論的分析については、エスニック空間をめぐる都市経営的側面と社会・文化的側面を扱った既存研究を整理した。実証的分析については、上述の(1)・(2)の作業を行った上で、都市経営的側面に関しては当初の研究計画を概ね完了したが、社会・文化的側面に関しては、研究の中断等の影響から研究計画の一部は未完了である。具体的には、当初の研究計画では、トロントに居住するイタリア系住民にとってリトル・イタリー地区がどのような場として認識されてきたのか、また、移民世代間の認識の変化を明らかにするために、Association for the Memory of Italo-Canadian Immigrants(イタリア系カナダ協会)に対する調査を予定していた。だが、ホームページ等を通じて複数回接触を試みたものの、未だ調査協力の承諾が得られていない状況である。そのため、次年度は現地で同団体に直接調査協力を依頼する等、引き続きアポイントメントが得られるよう努めるとともに、代替措置の検討が必要だろう。 また、平成28年度に実施した研究の成果から、エスニック空間の変化における都市経営的側面と社会・文化的側面の結び付きをより深く考察するためには、国・自治体で実施されたエスニック集団に関する政策の影響を考慮する必要があると示唆された。この点については、カナダ及びトロント市の移民政策・多文化主義政策に関する既存研究を整理した。本作業は未完了のため、次年度に継続して実施する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、平成29年度に実施した(1)・(2)の成果を国内学術雑誌に投稿する。また、平成29年度に遂行予定であった作業のうち、研究中断に伴い完了することのできなかった以下の2つの作業を実施する予定である。 第一に、イタリア系カナダ協会の所在地への訪問等によって、本研究への調査協力を依頼する。同団体から調査協力の承諾が得られない場合には、リトル・イタリー地区で商業店舗を営むイタリア系住民に調査協力を依頼できないか検討する。調査協力者には、社会・文化的側面の実証的分析の一環として、トロントに居住するイタリア系住民にとってリトル・イタリー地区がどのような場として認識されてきたのか、また、そうした認識は移民世代間で変化しているか等に関する半構造化インタビューを行う。 第二に、第一の調査結果と、平成28年度及び平成29年度に実施した成果をふまえ、本研究の最終的な目的を達成するため、リトル・イタリー地区の歴史的変遷と現在の状況の分析を通して、エスニック空間をめぐる都市経営的側面と社会・文化的側面との結び付きを考察する。
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