2016 Fiscal Year Annual Research Report
スズメ目鳥類における仔の性特異的死亡を介した二次性比の調節メカニズムの解明
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16J06000
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
加藤 貴大 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 性特異的死亡 / 性比 / ストレスホルモン / スズメ |
Outline of Annual Research Achievements |
スズメ Passer montanusにおける一腹卵の胚発生率は、他のスズメ目鳥類に比べて低いことが知られている。報告者は低い胚発生率の生理的要因と生態学的機能を解明するため、2016年度に秋田県大潟村において野外調査を実施した。許可を得て村内に約120の巣箱を設置し、巣箱を利用して繁殖したスズメを対象として主に3項目を調査した。 1つ目は親個体に対するホルモンのimplantである。皮下にシリコンチューブを入れ、親個体のホルモンレベルを操作し、胚発生に対するホルモンの影響を調べた。その結果、ストレスホルモンとして知られるコルチコステロンをimplantした個体が産んだ卵の胚発生率が下がる傾向が見られた。また、コルチコステロンの合成阻害剤であるメチラポンをimplantした個体が産んだ卵は高い確率で胚発生する傾向があった。雛の成長度合いが変化したことから親による給餌頻度などが変化したと考えられるが、これについては現在分析中である。 2つ目は胚の死亡により生じた未孵化卵の生態学的意義である。これを調べるため、報告者が未孵化卵を操作的に除去する巣としない巣で雛の成長度合いや親の給餌量を比較した。その結果、未孵化卵を除去した巣では雛の成長度合いが低くなることが分かった。 3つ目は、胚発生しなかった卵が受精しているかを調べるため、非発生卵の胚盤を採取し、核染色処理をした後に核の蛍光顕微鏡下で観察を行った。受精卵であれば多数の核が見られ、未受精卵ならばほとんど核が見られない。観察の結果、採取した8割以上の胚盤において多数の核が見られた。このことから、ほとんどが受精卵であるにもかかわらず胚発生が進まなかったことが分かった。また、胚盤から得られたDNAをもとに性別を調べた結果、ほとんどが雄であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スズメにおける胚の死亡は、未授精であることが原因ではないことが分かった。また、雄胚の死亡率が非常に高いため、雄胚の死亡率に依存して子の性比が変化することが分かった。これらの結果をまとめた投稿論文を作成中であり、2017年度5月に投稿する予定である。 胚が死亡する適応的意義については、未孵化卵を除去する実験からその一部が明らかとなった。しかし、雄胚だけが死亡する原因については不明であり、次年度の課題である。 胚発生が進まない内分泌学的要因については、まだ当初の目標を達成できていないが、データそのものは得られており、次年度も引き続き継続して調査を行うことで十分なデータが揃う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
親個体に対するホルモンのimplantについては、初年度の野外調査だけではサンプル数が少ないため、統計的に信頼性のある解析をできていない。しかし、次年度も引き続き同項目を継続することで、この問題は解消される見込みである。胚発生に対するホルモンの影響については、卵黄内のホルモンレベルについても分析する予定である。こちらも初年度に、卵黄中にホルモンを注入する実験を行っているが、まだ統計解析に耐えるだけのサンプルを得られていない。しかしながら、implant実験と同様に、次年度も同項目を継続して実施することで十分なサンプル数を得られる予定である。 雄胚が死亡する適応的意義については、鳥類の出生分散の性差を考慮して研究を進める。鳥類では、巣立ち雛の雄は巣立ち場所に翌年以降も留まり、雌は遠くへ移動する。これはスズメでも同様の傾向を示すデータが得られている。つまり、報告者は繁殖場所によって巣立ち雛の性別を親個体が操作していると仮説を立てた。これを検証するために、昨年度標識した巣立ち雛の繁殖成績調査する予定である。
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Research Products
(7 results)