2016 Fiscal Year Annual Research Report
荒瀬ダム撤去に着目した大規模土砂かく乱と干潟生態系の応答
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16J06360
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小山 彰彦 九州大学, 生物資源環境科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 干潟 / 生態系 / ダム撤去 / 生物多様性 / 保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、河口干潟の生物多様性維持機構の解明である。研究達成には大小さまざまな規模の底質かく乱と干潟生物の応答を追跡しなければならない。そこで、申請者は熊本県球磨川のダム撤去によって生じる、干潟域への大規模な土砂供給に着目した。 研究初年度は10月と3月の2回、定期調査を実施した。定期調査以外に、(1)球磨川河口域に出現する魚類・甲殻類・貝類の網羅的な生物相把握を目的とした生物調査と(2)生物各種の底質に対する選好性の解明に関する解析を実施した。 (1)の調査について、本年度と過去の調査結果から、魚類58種、甲殻類66種、貝類70種、計194種が確認された。このうち、全体の約4割の種が境省レッドリストに希少種として記載されており、球磨川河口域の保全の重要性が再認識された。 (2)の解析について、ダム撤去前からダム撤去初期(2011年から2014年)までに集積した生物情報、および塩分・比高・底質などの物理環境情報を用いて、生息地適正モデル(Habitat suitability model: HSM)の構築を試みた。解析の結果、カニ類21種、ハゼ類16種で良好な精度のHSMを構築することができた。底質の変化に対する各種の応答曲線を作図した結果、種ごとにその応答は様々であるが、大別すると「礫を好む種」、「砂を好む種」、「砂泥を好む種」、「泥を好む種」の4タイプとなった。 また、ダム撤去前、およびダム撤去初期の春季に実施した104ヶ所の調査定点について、底質を比較した。ウィルコクソンの符号順位検定を行った結果、ダム撤去初期で砂分率が有意に高いことが明らかになった。加えて、アナジャコやハマグリなど砂質干潟に生息する水産有用種の確認地点数の増加も認められた。これらの結果から、ダム堆積土砂によって、干潟の底質が粗粒化し、砂質環境を好む生物が卓越しつつあると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究全体の行程として、①球磨川干潟域の生物相を把握すること、②底質かく乱に対して有効な指標種を選出すること、③ダム撤去前、撤去初期、撤去後期の3期について、指標種を用いた群集解析を行い、底質かく乱による生態系変動を解明すること、の3つのステップを経て、河口干潟の生物多様性維持機構の解明を試みる。本年度は①と②のステップを取りまとめる予定であった。 本研究調査地は熊本県八代市の球磨川河口域であるため、平成28年熊本地震(4月)の影響が危惧された。本研究では、2016年10月と翌年3月の年2回定期調査を行う予定であったが、交通機関がある程度復旧した2016年6月に、河口域生態系調査を実施した。その結果、地震による生態系かく乱の影響は小さく、当初予定していた計画通りの研究を実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究全体の行程として、①球磨川干潟域の生物相を把握すること、②底質かく乱に対して有効な指標種を選出すること、③ダム撤去前、撤去初期、撤去後期の3期について、指標種を用いた群集解析を行い、底質かく乱による生態系変動を解明すること、の3つのステップを経て、河口干潟の生物多様性維持機構の解明を試みる。28年度は①と②を概ね達成することができた。今後は、③の達成を主目的とした研究を進める。 29年度も年2回の定期調査を続行する。②について、甲殻類と魚類の指標種は概ね抽出できたため、29年度は貝類の指標種選定も試みる。そして、②によって選定した指標種を解析対象として、ダム撤去前、撤去初期、撤去後期の生物相の変化を解析し、干潟生態系の種多様性維持機構解明を試みる。
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Research Products
(4 results)