2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J06627
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
時丸 祐輝 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | コラニュレン / ペンタベンゾアザコラニュレン / ドナーアクセプター性共結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
ペンタベンゾボラコラニュレンは、以前に開発したドナー型のおわん型化合物であるペンタベンゾアザコラニュレンと同程度のπ平面を有し、ボロール環に由来する低いLUMOを有するため、n型の半導体有機材料としての応用が期待される分子である。また、ペンタベンゾアザコラニュレンとの共結晶が作成できれば、初のおわん型化合物どうしのドナーアクセプター型の共結晶となり、従来の電荷分離による強誘電性だけでなく、おわん型骨格に由来するπ平面垂直方向の双極子を利用した強誘電性の発現が期待できる。しかしながら、不安定なボロール骨格を含んでいるため、合成中間体が非常に不安定であり、合成の難易度は高い。 以上を踏まえて、本年度はペンタベンゾボラコラニュレンの合成にとりかかる前に、最終的な目的であるおわん型化合物のドナー・アクセプター方の共結晶の作成に着手した。おわん型の化合物として、ペンタクロロコラニュレンに着目した。ペンタクロロコラニュレンは-2.55 eVと低いLUMOを有するので、先行研究のペンタベンゾアザコラニュレン(HOMO: -4.84 eV)との共結晶化が期待できる。まず、溶液中での相互作用を評価するため、NMRによる解析を行った。また、ペンタクロロコラニュレンとペンタベンゾアザコラニュレンの共結晶の作成を行った。しかし、今のところ共結晶は得られていない。 また、ペンタベンゾアザコラニュレンやペンタベンゾボラコラニュレンとは異なる電子構造を有する、全て炭素から構成されるペンタベンゾコラニュレニルの合成を試みた。ペンタベンゾコラニュレニルは中心のシクロペンタジエン環に由来するラジカルまたはアニオン状態で安定であると予測される。まず、前駆体の合成を行い、分子内Pdカップリングにより結合形成を試みた。結果、原料が数10%程度で回収された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、おわん型化合物どうしの共結晶作成の作成に取り組んだ。おわん型化合物同士の共結晶が作成できれば、おわん型化合物の面垂直方向の双極子と、電荷分離による双極子モーメントの発現が協同的に作用して、これまでにない強誘電性材料を開発できる可能性がある。 以上を踏まえて、ペンタクロロコラニュレンとペンタベンゾアザコラニュレンの共結晶化を試みた。濃度を変えてNMRを測定した結果、ペンタクロロコラニュレンのケミカルシフトがドナーの有無によって変化することが明らかとなった。溶液中における何らかの相互作用を示唆している。この結果は、私の知る限りおわん化合物どうしの溶液中での相互作用を観測した初の例であり、HOMOとLUMOの準位に着目した分子設計の妥当性を支持する結果である。 また、全て炭素から構成されるペンタベンゾアザコラニュレンのアナログの、ペンタベンゾコラニュレニルの合成を試みた。結果、用いた前駆体からは、Pdによる分子内炭素-炭素結合形成反応が振興せず、目的の分子が合成できないことが明らかとなった。導入したシクロペンタジエン環の化学変化が反応系中で起こり、目的の反応が進行しなかったことが主な原因であると考えられる。この結果は今後の反応ルート設計における重要な指針となり得る。
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Strategy for Future Research Activity |
①ドナー性・アクセプター性のおわん型共結晶作成、②ペンタベンゾコラニュレニル種の合成の今後の研究推進方策に関して、それぞれ以下に述べる。
①ドナーアクセプター性のおわん型共結晶 本年度の研究結果より、少なくとも溶液中では2種類のおわん型化合物どうしが相互作用することが確認できた。よりつよい相互作用を発現するためには、2種類の化合物のHOMOとLUMOの準位を近づける必要がある。その手段として、より強いドナー性を有する分子や、より低いアクセプター性を有する分子を利用することが考えられる。具体的には、電子供与基を導入したペンタベンゾアザコラニュレン、および文献既知であるデカクロロコラニュレンを用いることで、共結晶の発現を目指す。また、相互作用の強さを改善するには、その他にπ-π相互作用を利用する方法がある。ペンタベンゾアザコラニュレンと同様のπ平面の広さを有するペンタベンゾボラコラニュレンであれば、コラニュレンと比較してより強いπ-π相互作用の発現が見込まれる。また、ペンタベンゾボラコラニュレンは低いLUMOを有するためドナーとの電子的な相互作用も強いと考えられる。よって、当初の研究計画どおり、本年度はペンタベンゾボラコラニュレンの合成にとりかかる。 ②ペンタベンゾコラニュレニルの合成 シクロペンタジエン環が炭素-炭素結合形成反応において化学的変化を受けていることが明らかとなったので、シクロペンタジエン種を経由しない合成ストラテジーを用いて、目的の分子を合成する。合成に成功した場合、種々の電子的性質について明らかにし、結晶性デバイスへの応用へ用いる。
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