2017 Fiscal Year Annual Research Report
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16J06627
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
時丸 祐輝 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | コラニュレン / 1,3-双極子付加環化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、コラニュレンに対する1,3-双極子付加環化反応を開発した。おわん型の形状を有する分子であるコラニュレンは、面垂直方向の双極子や高いフラーレンとの会合能を有する分子であり盛んに研究がなされている。これまでにその分子構造を利用したアプリケーションを志向して、様々なコラニュレンへの修飾方法が開発されてきたが、コラニュレンのおわんの外側の炭素-炭素二重結合に対する付加環化反応の前例はなかった。この前例のない反応を達成するため、4pi電子系として炭素-窒素-炭素から構成される1,3-双極子であるアゾメチンイリドに着目した。アゾメチンイリドのフラーレンやカーボンナノチューブへの1,3-双極子付加環化反応はPrato反応と呼ばれており、曲面を有する多環芳香族分子の修飾方法として最も用いられている反応のうちのひとつである。そこで、フラーレンの部分骨格からなるコラニュレンに対しても、同様に反応が進行するのではないかと着想した。 通常のPrato反応で用いられているアゾメチンイリドや反応条件ではコラニュレンには反応しなかったが、以前の研究にて開発した多環芳香族アゾメチンイリドを用いた結果、1,3-双極子付加環化反応が良好な収率で進行することがわかった。また、この反応はおわんの凸側から外側の炭素-炭素二重結合に対して選択的に進行していることがわかった。得られたピロリジン骨格を有する付加体は引き続く酸化的な脱水素化によって、ピロールの縮環したコラニュレンに変換することができた。また、開発したコラニュレンに対する1,3-双極子付加環化反応を用いて、無置換のコラニュレンからはじめてわずか2ステップで炭素数40以上からなる深いアザバッキーボウルの合成に成功している。 以上の研究成果は、査読付き論文1報に報告している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新規おわん型分子の開発とそれによる機能発現を志向して、ホウ素原子を骨格に導入したベンゼン縮環ボラコラニュレンの合成を提案していたが、その合成の困難さから現在までのところ目的分子の合成は達成できていない。しかしながら、おわん型の分子コラニュレンに対する新たな反応様式の開発を行い、新たな骨格へのアクセスが可能となった。この反応は、曲面を有する多環芳香族炭化水素特有のひずみを活かした反応開発であり、フラーレンだけでなくその部分骨格であるコラニュレンに対してもそのコンセプトが適用可能であると示せた点で意義深い。また、新たに開発した反応を利用することでアザフラーレンC79-XNXの半分以上の骨格から構成される深いアザバッキーボウルの開発にも成功している。高次アザフラーレンは、導入する位置/個数の制御が難しいという理由から合成があまり報告されておらず、その部分骨格を有するアザバッキーボウルの合成はその未知の物性探索という観点からも意義深い。 これらの成果は、当初計画していた研究の方針とは異なるものの、多様なおわん型分子の設計・合成を可能とし、それをベースとして機能発現を狙っていくという文脈から言えば研究はおおむね順調に進行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に開発したコラニュレンの修飾方法を利用して、高次アザフラーレンの半分以上の部分骨格からなるアザバッキーボウルを合成が可能となった。さらに芳香族の曲面を拡張する反応を開発、ないし、適切な出発物質を設計・合成することができれば、より深いアザバッキーボウルが合成可能になると考える。最終的には、窒素の位置と個数をコントロールし、高次アザフラーレンの合成にとりくむ予定である。現状アザフラーレンの合成は、主に①フラーレンC60やC70を出発物質とした有機合成的手法。②炭素ソースと窒素ソースに対してレーザー照射を行い得られたススから目的物を精製する手法。に依存しており、全合成的にフラーレンを合成する手法を開発できれば新たなアザフラーレン合成の手法となる。もしこの合成が達成できれば、窒素の導入個数・形式およびフラーレンの次数が物性に与える影響への理解につながり、新たな分子設計の指針となる。芳香族の曲面を拡張する反応の開発においては、反応ステップ数省略のために、特殊な置換基の導入を必要とせず、おわん型の分子ゆえのひずみを駆動力とした反応開発が望ましい。もしくは、有機合成的な逐次合成ではなく、800度前後の高温を利用し一挙に炭素-炭素結合を構築する反応系/出発物質の探索が求められる。
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