2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J06721
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
似鳥 雄一 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 惣村 / 菅浦 / 自検断 / 美濃国大井荘 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)これまで「惣村」の指標の一つとされてきた「自検断」について、その言葉を史料上で確認できる現状唯一の事例である近江国菅浦をとりあつかい、その内実について再検討を行った。当時の菅浦は山門に対して貢納を復活させるなど関係が強化されており、また一方で浅井氏とは商業取引での価格をめぐって摩擦を起こしていた。そのような菅浦の状況、「自検断」文言のある史料の性格などを踏まえて考察したところ、菅浦で用いられた「自検断」という言葉は、浅井氏の撰銭令によって禁じられた行為である「私検断」を、山門花王院と思しき外部者の知識を借りながらも、村落の論理によって言い換えた造語である、との結論に達した。 (2)最近の研究によれば、「惣村地域」に接する畿内の一部地域では、水稲耕作の生産性が15世紀後半には1反あたり2石を超えたという。この推計結果を検証する意味も込めて、明治時代から作成されている政府の統計を活用して前近代の水稲耕作の生産性を推定し、それをもとに中世の状況を大まかに予想してみた。その結果、畿内のような先進地域でも、中世後期、しかも豊作年という条件下でようやく反別2石、不作年も含めた平均的な数値を求めるとすれば1.5石、不作年には1石を切ることもあったものと推定された。 (3)「惣村地域」との比較材料として、近江国から距離が近い美濃国大井荘をとりあげ、村落について考える上でも無視することのできない「名」のあり方について検討した。大井荘では鎌倉後期の検注帳が残されているが、名・名主という要素に特に注意を払うことで、従来よりも確かな荘域の現地比定が可能であり、長らく問題視されてきた検注帳の異常な数値、すなわち一坪の面積が一町を超えるケースも、本来はそこに記載すべきではない数値、多くの場合は隣接する別の坪をも含めて記載したものと解釈できることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の研究実績のうち、(1)については2018年4月に刊行予定の『中世の荘園経営と惣村』(吉川弘文館)に、(2)については2018年秋に刊行予定の『郷土史大系』(朝倉書店)に、(3)については2018年6月に刊行予定の『中世荘園村落の環境歴史学 ―東大寺領美濃国大井荘の研究―』(吉川弘文館)に掲載される予定となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
「自検断」や「地下請」など、惣村指標に関する問い直しが進んでいる現今の研究状況を踏まえて、本研究では地域社会における惣村の位置付けについて考察を深めていきたい。とりわけ比叡山や高野山などといった領主権力との関係性、あるいは惣村とは対極の「自治なき村落」の検出、などといった諸点が具体的な方向性となろう。
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Research Products
(2 results)