2016 Fiscal Year Annual Research Report
新規スピントルクを利用した磁壁移動型メモリーの研究
Project/Area Number |
16J06745
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
谷口 卓也 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
Keywords | スピントロニクス / 磁壁 / 電流駆動磁壁移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、次世代不揮発磁気記録素子として新規スピントルクであるスピンホールトルクを用いた省電力・大容量な磁壁移動型メモリーの研究に取り組んでいる。具体的には(A)磁壁移動に最低限必要な電流密度(閾電流密度)の低減 、および(B) 安定して存在できる最大磁壁密度の調査を行う。各目的に対する研究実績は以下の通りである。 (A)本研究課題の当初の計画は、多様な非磁性体を用いて多層膜を成膜し、それを利用して閾電流密度の低減を狙うものであった。新規スピントルクを用いて磁壁を駆動させるためには、ジャロシンスキー・守谷相互作用を内在した垂直磁化膜を成膜する必要がある。しかし同条件を有する多層膜の成膜が困難だと判断し、スピンホールトルクを用いつつ異なる手法で閾電流密度の低減を実現することにした。閾電流密度の低減には高周波電流による磁壁共鳴を利用する。磁壁が特定の周波数で振動していることは良く知られている。振動周波数と同一周波数のスピンホールトルクを与えると磁壁は共鳴して移動しやすくなり、閾電流密度を低減できることが期待される。本年度では高周波電流を利用した実験の前段階として、振動周波数が実験可能な周波数帯にあることをシミュレーションを用いて調査した。その結果、1~5 GHzで磁壁が振動していることが明らかになり、十分実験可能であることを確認できた。 (B)最大磁壁密度の調査に向けて、室温下で磁壁位置の熱揺らぎを実時間観測し、磁壁が揺らぐ大きさを定量評価した。その結果、最大磁壁密度を調査する際には磁壁の熱揺らぎの大きさに対応する40 nm程度の磁壁間距離が必要なことがわかった。また、幅が100 nm以下の細線では、観測時間領域において磁壁位置の熱揺らぎが生じなかった。本結果は、特徴的な長さよりも小さな素子を作製することで磁壁メモリーの情報保持時間を飛躍的に上昇させられることを示唆する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的は(A)磁壁移動に最低限必要な電流密度(閾電流密度)の低減 、および(B) 安定して存在できる最大磁壁密度の調査を行うことである。計画内容は当初とは異なるものの高周波電流を用いることでも閾電流密度の低減という目的の達成が大いに期待できることがシミュレーションによりわかった。 また、最大磁壁密度の調査に向けて、室温下で磁壁位置が揺らぐ大きさを調査した。その結果、最大磁壁密度の調査に必要な磁壁間隔距離の指標を得ただけでなく、磁壁メモリーの情報保持時間の上昇に繋がる重要な知見も得られた。さらに、ナノメートルスケールの微小な磁壁熱揺らぎを実験的に観測した例は初めてであり、学術的にも大変に価値がある。 以上の研究結果は、磁壁移動型メモリーの実現に向けた大きな進展である上に、基礎物理的にも意義深いものであることから、当初の計画以上に研究は進展していると評価する。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度では、シミュレーションにより得られた情報を用いて閾電流密度の低減を実現する。また、安定して存在できる最大磁壁密度を得るために実際に複数の磁壁を試料中に配置し、磁壁の安定性と磁壁間距離の関係を調査する。
|