2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J06775
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
荘司 一歩 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 考古学 / アンデス / 先史漁撈民 / 集団形成 / 公共建造物 / 集落 |
Outline of Annual Research Achievements |
本調査研究の目的は、ペルー共和国の北部海岸地域に成立した、先史時代の海岸定住社会を対象に、漁撈活動に従事した人々の世界観および社会集団の形成過程を明らかにすることにある。その具体的な手段となるのが、ペルー共和国、ラ・リベルタ州に位置するクルス・ベルデ遺跡の発掘調査および考古遺物の分析作業である。 本年度は、これまでに行ってきた、調査対象遺跡の選定と地形測量などの予備調査の成果をふまえ、クルス・ベルデ遺跡において考古学的な発掘調査を実施した。この発掘調査は、約1か月間、発掘作業員11名、ペルー人の考古学者3名、学生3名の協力を得て行われた。 この発掘調査によって、クルス・ベルデ遺跡は、定住漁撈民の小集落であったことが確認されたほか、その近辺につくられた小規模な公共建造物の存在とその建設過程が明らかになった。とくに、この小規模な公共建造物は、複数の埋葬遺体を埋め込みながら重層的に繰り返し建設された基壇であったことがわかり、その利用は先土器時代に遡る。こうした点は、公共建造物を含む漁撈集落の形成過程を考えるうえでも興味深いデータであるといえ、大きな成果となった。 また、こうした発掘調査によって、多くの考古遺物を収集することができたことも重要な成果といえる。これらの考古遺物として、土器や石器、骨角器などの人工遺物や、利用された動植物の残滓である動植物遺存体、絶対年代値を測定するための炭化物などが挙げられる。これらは、専門的な知識や技術、設備を要する発展的な分析過程を経ることで、往時の人々の物質文化や遺跡間・地域間交流、動植物利用と生業活動、それらの通時的な変化と絶対年代などが明らかになる。そのため、この遺跡で行われた活動を復元するうえで必要となる基礎資料を得ることができたといえる。これらは本研究課題の根幹をなす研究データといえ、研究計画の中でも最も重要なものとして位置づけられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、これまでの予備調査の成果をふまえ、ペルー共和国、ラ・リベルタ州のクルス・ベルデ遺跡において考古学的な発掘調査を実施した。この調査によって、クルス・ベルデ遺跡は、定住漁撈民の小集落であった可能性が高いことが確認され、その近辺につくられた小規模な公共建造物の存在とその建設過程が明らかになるなど、期待通りに多くの成果がもたらされた。こうした考古学調査の実現は、考古遺物や遺構など、本研究課題の根幹をなす研究データを収集するうえで欠かせない作業であり、研究計画の中でも最も重要なものとして位置づけられる。さらに、こうした調査データの整理作業を通じて、ペルー文化省に提出する2冊の報告書をスペイン語で書き上げた。この報告書は、調査成果を調査地へ公開・還元するという点で重要である。また、調査成果をふまえて、日本国内の研究会での研究発表を行い、その成果について多くの研究者と意見を交わすこともできた。 以上の研究状況に基づき、本研究計画は期待通りに進捗していると評価できる
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の成果をふまえた来年度の調査計画では、クルス・ベルデ遺跡を対象とした考古学調査と分析を引き続き遂行していく。とくに、平成28年度の発掘調査で得られた考古遺物の整理・分析作業を進め、当時の物質文化や公共建造物で行われていた諸活動を明らかにする。また、動植物遺存体や炭化物は、専門機関にその分析を依頼し、データの充実を図る。さらに、同遺跡において平成29年度の8月に約1か月間の発掘調査を実施する。公共建造物を対象とした本年度の発掘区を拡張して、その建築プランや基壇上での活動の痕跡を捉えるとともに、そこから200mほど離れた場所に位置する別のマウンド群の発掘調査を行う。このマウンドは、先土器時代の住居址や生活残滓が積み重なって形成されたものと想定できるが、その実態や前述の公共建造物との関係性は明らかでない。このマウンド群形成過程を明らかにし、公共建造物との関係性に迫ることで、公共建造物と住居址双方の空間の活動の相互関係を明らかにし、先史漁撈民の世界観と社会集団の形成過程を解明する。 加えて、平成28年と平成29年の研究成果をもとに、学会発表や雑誌論文の投稿を行う。これらの成果公開は、遺跡から出土した炭化物の年代測定を待ってから公表必要がある。そのため、5月にペルーから日本への試料の輸出を行い、6月に分析を依頼する。平成29年度の8月にペルーで行われる国際学会で発表するほか、国内雑誌の『古代アメリカ』や、ペルーで発行される国際雑誌『Andean Past』などへの投稿を予定している。
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Research Products
(3 results)