2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J06813
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
島本 直弥 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | A型の多重旗多様体の軌道分解 / 星形箙の表現論 / 簡約群の表現論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,表現論に端を発した両側剰余類の幾何学をメインテーマとしている. その中でも特に旗多様体G/Pの,Gの部分群Hによる軌道分解については,表現の分岐則など古くから様々な研究の応用に重要な役割を果たしてきた.そして一方で,旗多様体の軌道分解の幾何学についてもさらに古くから研究されており,組合せ論敵幾何学や軌道の閉包関係の研究など,多くの問題意識から研究されている. しかし,今までこれらの旗多様体の軌道分解については,いずれも主として軌道が有限個であるという性質のもとにおいてのみ研究されてきた. 一方で,旗多様体が無限個の軌道に分解される場合であっても,比較的構造が見やすいと思われる状況が存在する.一般に,軌道が有限個であれば開軌道は必ず存在し,逆にPがGの極小放物型部分群である場合においては,開軌道が存在すれば自動的に軌道は有限個になる.PがGの極小放物型部分群でない場合については,開軌道が存在しつつも同時に軌道が無限個存在することが起こりうるが,この状況は軌道が有限個になる場合に比較的類似しており,軌道分解やその応用も計算しやすいと期待される. そこで本研究では,旗多様体G/Pとして特に多重旗多様体を考え,その上のH-作用として対角作用を考えた時,上記のような開軌道と無限個の軌道が同時に存在する状況になる場合について軌道分解を具体的に記述する.本年度は,多重旗多様体の軌道分解を星形箙の表現の同値類の分類問題に置き換えるという手法に立ち,特に多重旗多様体のうちA型で,Pの直積成分がミラボリック部分群となっているものを考え,その場合についての軌道分解の具体的な記述を与えた.また,その場合においての軌道空間の閉包関係や次元公式についての結果も組み合わせ論的な手法により与えた.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度までに既に,A型の多重旗多様体のうち直積成分の個数が5以下のものについては軌道分解の具体的記述や軌道の閉包関係についての結果を得ていた.これは,多重旗多様体を複比のランクによって記述される線形代数的な条件によって一旦粗く分解し,実はそれらが単一の軌道になっているか,もしくはもとの射影空間よりも小さい次元の射影空間の開稠密な集合によってパラメトライズされる無限個の軌道に分解されるか,この2つの可能性のどちらかに必ずなるということを証明し,実際にそれぞれがどちらなのかを分類することで軌道分解の具体的な記述を与えるという手法に基づいたものである. この問題について,こうして得られた軌道分解の記述を用いて,簡約群Gの直積群の表現からその対角部分群Gの既約表現への対称性の破れを記述する作用素の構成を行うのが本研究の今年度の目標であった. そこで,多重旗多様体の軌道空間という対象の見通しをよくするために,多重旗多様体の軌道分解という問題を,星型箙上の表現の同型類の分類として捉える手法を導入した.しかし,この手法を用いることによって,先述した5つ以下の直積の場合だけでなくより一般の場合についても軌道の具体的な記述を行えることが期待できることに気が付いた.具体的には,先述した「複比のランクによって記述される線形代数的な条件」を表現の次元ベクトルに関する条件へと翻訳でき,この条件を用いた判定により軌道の具体的な分解を組み合わせ論的に得られることがわかった. この新たな手法の導入と,それに伴って軌道分解の具体的な記述の設定の一般化に問題をシフトしたことによって本来の目標である対称性の破れを記述する作用素の構成についてはまだ着手した多段階であるが,A型以外の群やミラボリック以外の放物型部分群についてもこの手法を発展させることにより多重旗多様体の軌道分解の具体的記述をできるという示唆を得た.
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は当初の研究目標であった簡約群Gの直積群の表現からその対角部分群の既約表現への対称性の破れを記述する作用素の構成から,多重旗多様体の軌道分解の具体的記述に問題意識をシフトしたため,次年度は当初の研究目標に立ち返り研究を行う. 具体的な方策としては,まず係数体を有限体(もしくは,その代数閉包)に設定し,組み合わせ論的な数え上げの手法で作用素を構成する.その上で,先述した多重旗多様体を複比のランクによって記述される線形代数的な条件(星形箙上の表現としてみた時は,表現の次元ベクトルに関する条件)によって一旦粗く分解した部分空間のうち,単一の軌道になっているもの,もとの射影空間よりも小さい次元の射影空間の開稠密な集合によってパラメトライズされる無限個の軌道に分解されるもの,そしてそのようにしてパラメトライズされる無限個の軌道達ひとつひとつ,これらのそれぞれに台を持つ作用素の挙動の違いを観察する. こうして得られた観察結果を元に,係数体を実数体や複素数体などに戻し,作用素の具体的な構成を試みる. また,旗多様体G/Pの軌道分解の具体的記述という面においては,今年度対象とした多重旗多様体の対角部分群による軌道分解についてはA型の時と同じ手法を応用することにより同様に得ることができるとわかったので,他の枠組みについて具体的な軌道分解の記述をメインテーマとする. 具体的には,簡約型対称対(G,G')について,それぞれの極小放物型部分群(P,P')に対して旗多様体G/P上のP'-軌道分解や,G'を半単純部分Hに制限した時の軌道分解などが挙げられる.
|