2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J07002
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井上 岳彦 東北大学, 東北アジア研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | ロシア帝国 / 帝国論 / 仏教 / カルムィク人 / ブリヤート人 / 東洋学 / アジア / サンクトペテルブルグ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、ロシア帝国の東洋学者による仏教研究の系譜と対アジア政策の関係を明らかにするために、前年度に引き続き、ロシア帝国の東洋学者による報告書や各種会議での議事録を、ロシア科学アカデミー公文書館サンクトペテルブルグ支所、同東洋写本研究所、ロシア国民図書館手稿部、ロシア国立歴史公文書館、カルムィク共和国国民公文書館などの機関で収集した。 本年度までに見いだされた論点は、以下の通りである。すなわち、1.ロシアの東洋学者は政府の各種会議に出席したが、彼らの意見は専門分野の範囲を超えることも少なくなく、アジアを扱うという専門性は優位性となってその影響力も強かったことが見いだされた。また、2.カルムィク人やブリヤート人の民族エリートは東洋学者と密接に連携しながら中央の情報を獲得し、時に自身の意見を東洋学者を通して中央に伝達させたことがいくつかの事例から分析できた。 具体的研究成果としては、ブリヤート人仏教社会をロシア帝国論のなかで考察する先駆的研究N.ツィレンピロフ著『仏教と帝国:ロシアのブリヤート人教団(18世紀―20世紀初)』ウラン・ウデ、ロシア科学アカデミー・シベリア支部モンゴル学・仏教学・チベット学研究所、2013年(ロシア語)について、英文書評を執筆した。 また、ロシア科学アカデミー公文書館サンクトペテルブルグ支所所蔵の仏教学者F.シチェルバツコイ・フォンドに、帝政末期に活躍したカルムィク人指導者ツェレンダヴィド・トゥンドゥトフがダライラマ13世に宛てた書簡を見つけ、その意義について研究ノートを共著で執筆した。更なる検証が不可欠であるが、この書簡はカルムィク人とチベットの関係、ロシア中央政治におけるチベット問題の位置づけを考えるうえで、非常に重要な発見であり、今後本研究を進めるうえでひとつの重要な鍵となり得るだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
東洋学者と仏教徒の関係性を明らかにしたという点においては進展があったが、モスクワのロシア帝国外交史料館での史料収集という点ではやや遅れが出ている。これは、外交史料館所蔵史料から採録された公刊史料の分析に、平成29年度は重点を置いたことによるものである。ロシアの1年マルチ査証の取得に成功したので、平成30年度は外交史料館での未公刊史料の収集に継続的に取り組むことができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、若干遅れているロシア帝国外交史料館(モスクワ)での史料収集と読解に重点を置く。 また、機会があれば引き続き、東洋学者と民族エリートの関係、東洋学者と政策の関係について、サンクトペテルブルグやモスクワ、さらにエリスタやウラン・ウデといった地方都市でも、史料を収集し読解・分析を進める。 研究の地域社会への還元の必要性が叫ばれており、研究代表者も非常に重要なことだと考える。平成29年度にロシア科学アカデミー・カルムィク人文研究所(エリスタ)の副所長から、研究所の紀要がOrient Studiesと名称変更し国際査読雑誌となったため寄稿してほしいと強く要請された。今年度の研究成果を公表する先として、地域社会に研究を還元できる媒体への投稿の可能性を模索する必要があると考える。
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