2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J07018
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
玉井 颯一 名古屋大学, 教育発達科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 戦略的排斥 / 功利主義 / 集団としての利益 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、刑法理論の領域における議論を援用しながら、排斥が制度的な制裁として容認されるまでの心理プロセスを検討した。
参加者は、問題のある子どもを学校から排斥する制度が提案されるという場面が描かれたシナリオを読んだ。シナリオでは、子どもを学校から排斥する根拠として、(a) 他の生徒の安心安全な学校生活のために排斥するという功利主義的な根拠、(b) 問題行動を行ったことに対する罰として排斥するという応報主義的な根拠、(c) 問題のある子どもに善悪の基準を教育するために排斥するという道徳教育論的な根拠を呈示し、各根拠に基づく排斥をどの程度支持できるか評定させた。その結果、功利主義的な根拠に基づく排斥がもっとも支持されやすく、応報主義と道徳教育論的な根拠に基づく排斥は同程度に支持されることが示された(研究1-1)。なお、この結果は集団主義傾向の高い個人において顕著に見られることも確認されている(研究1-2)。これらの結果は、功利主義的な根拠、すなわち、最大多数の最大幸福を志向しながら排斥を容認していること、そして、功利主義への選好が集団主義傾向と強く関連していることを示しており、人々は集団としての利益を強く志向していることが示唆された。これらの検討の結果を、2本の学術論文としてまとめることを予定しており、現在投稿中のものが1本、投稿に向けて1本が準備されている。 ただし、排斥された個人だけではなく、排斥を容認・行使する個人もまた心理的痛みを経験することが明らかにされている (Legate et al., 2013)。今後は、こうした心理的痛みを、個人はいかに抑制・超克しているかを検討することが求められる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
刑法理論における議論を踏襲したシナリオ実験を通して、排斥を行使・容認する際に、人々は集団としての利益を得ることを高く価値づけているという新たな知見を得た。これらの知見は学術論文として成果報告する準備を進めている。総合的に検討して、研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
1年目に行ったシナリオ実験の結果を踏まえて、集団としての利益を得るために排斥を行使する際の神経プロセスを検討するfMRI実験に着手する。また、fMRI実験に用いるための実験刺激・実験パラダイムを開発し、神経系の実験に先立ち、認知実験を実施する。今後、一連の研究成果をまとめ、投稿論文を執筆する。
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Research Products
(4 results)