2016 Fiscal Year Annual Research Report
国際人権条約機関による権限行使のあり方と「民主主義」との関係
Project/Area Number |
16J07084
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
髙田 陽奈子 京都大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 国際人権法 / 欧州人権条約 / 米州人権条約 / 民主主義 / 国際人権法の立憲化 / 補完性 / 対話 / 評価の余地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(1)国際人権条約(主に、自由権規約、欧州人権条約および米州人権条約)の解釈・適用および履行確保にはいかなるアクターが携わっているか、そして(2)それらアクター間の役割分担を規律する原則や具体的基準は何であるかという視点から、国際人権条約実施のメカニズムに関する新しいモデルを提示することを目的とする。 このような目的のもと、28年度は以下3つの問題について、関連する先行研究を包括的に収集して、分類・分析し、先行研究の到達点と問題点を明らかにすることを目指した。 第1の問題は、国際人権条約レジームの正統性・実効性である。この問題は、本研究の必要性・実践的重要性にかかわる、背景的問題として位置付けられる。第2に、条約実施機関による審査基準(standard of review)の問題である。審査基準は、条約実施機関と他のアクターとの権限配分を規律する最も重要なツールの1つであり、欧州人権条約においては、「評価の余地」法理が発展してきた。他の実施機関による審査基準についても、ここ数年議論が進んでいる。第3に、権限配分のもう1つのツールとしての、条約実施機関による、違反是正措置命令である。近年、米州人権裁判所による恩赦法の無効宣言や条約適合性統制(conventionality control)、欧州人権裁判所によるパイロット判決の導入など、分析対象とすべき実行が増加しており、それに合わせて先行研究も蓄積しつつある。 これら問題に関する先行研究の分析から得られた最大の結論は、これら個別の問題を包含する、より大きな枠組の必要性である。その枠組の提示は、次年度以降への課題となるが、今年度においても、いくつかの試論を研究会やワークショップにおいて報告し、多くの有益なフィードバックを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は、先行研究の整理・分析を第1の目的として研究に取り組んだ。上述の3点に関する先行研究については、包括的な検討の結果、その全体像を明らかにすることができ、またその成果を研究会やワークショップにおいて計5回報告することもできたことから、本研究はおおむね順調に進捗していると評価する。 しかしながら、検討の過程で、対象とする先行研究の射程を広げる必要性が明らかになった。国際人権条約実施のメカニズムに関するモデルを提示する際には、国際法の支配的枠組たる「国家主権」との関係を考察することが必須であり、また、「国家主権」概念の代替を試みた諸学説(古典的文献を含む)についても、検証してみる必要がある。これらの作業は次年度への課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、上で課題として挙げたように、「国家主権」およびその代替概念に関する諸学説について理解を深める必要がある。それと同時に、国際人権条約のアクター間を規律する原理である「民主主義」「立憲化/ 立憲主義」「補完性」「対話」のそれぞれの概念の内容、理論的基盤、実際の事象との整合性および有用性についてより深く研究を行い、またそれら概念の相互関係についても分析したい。その際には、各条約機関の実行のみならず、関連アクター(特に、国内裁判所、国内議会、国内人権機関、NGO、国際機関)の実行についても検討対象とする。
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