2016 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical design of organometallic molecules with giant magnetocrystalline anisotropy from first principles calculations
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16J07422
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
名和 憲嗣 三重大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 第一原理計算 / 拘束密度汎関数法 / 有機金属錯体分子 / 強相関効果 / +U法 / 結晶磁気異方性 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機金属錯体分子は、分子スケールの微小磁性材料としての実現が期待され、その背景には、金属元素の置換や配位子場、さらに結晶・構造多形に依存した多岐に渡る磁気的性質の自由度を持つこと、機械的に高いフレキシブル性を持つことなどが挙げられる。これらの特性を活かした分子磁気メモリは、高度情報社会の発展に 不可欠となる大容量化や省エネルギー化に貢献できると考えられる。有機金属錯体分子材料の開発及び産業への応用を実現するためには、デバイス特性の制御に必要となる電子及びスピン状態の理解は重要な鍵となる。 一方で、有機金属錯体分子が持つ物性は、金属元素の基底状態におけるd軌道電子状態(電子配置)に起因しており、種々のd軌道電子配置の中から理論的に最安定状態を探索することは、種々の電子配置がエネルギー的に競合していることから困難とされている。加えて、金属元素付近に局在するd軌道電子間の相関効果を正確に考慮するためには、平均場近似を超えた密度汎関数理論に基づく第一原理的手法が求められている。 以上の背景のもと、本研究ではまず、ハバードモデルに基づく+U法を適用し、相関効果の程度を示す補正項の有効オンサイトクーロン相互作用パラメータU_effを理論的に決定することで、実験に依らない理論的な電子状態計算手法を開発する。次に、同手法を用いて巨大結晶磁気異方性を有する新規磁性材料の理論的設計を行う。材料としては、3d 遷移金属及びスピン軌道相互作用が強い 4f 希土類金属を有する金属フタロシアニン分子結晶を採用し、分子構造の変化や遷移金属基板との界面における軌道混成が与える結晶磁気異方性への寄与の解明から巨大結晶磁気異方性を発現する条件を調べる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一般に、+U法のパラメータU_effは実験結果を再現するように設定される他、近年では、種々の理論的計算から導出されるようになった。しかし、得られる電子構造や物性値がU_eff値に顕著に依存するにも関わらず、同じ物質に対しても様々な値が理論的に報告され、実験に寄らない第一原理的材料設計のためには信頼し得るパラメータ導出が求められている。 平成28年度は、原子球を仮定したマフィン・ティン(MT)球において異なる半径を用いたときのパラメータU_effの変化について、系統的に調べた。ここでは、上記の基礎的な課題を解決するために、強相関電子系材料の典型モデルである遷移金属酸化物TMO(TM=Mn, Fe, Co, Ni)に着目した。U_eff値は、線形応答理論に従い全エネルギーの局在軌道電子数に関する二階微分から算出し、全ての計算は、密度行列に対してLagrange未定乗数法を導入した拘束密度汎関数理論に基づく全電子FLAPW法により行った。計算結果から、MT半径の増加に伴いU_eff値が減少したことから両者の強い依存性を確認した。しかし、バンド計算からは価電子帯においては同一の電子構造が得られた。以上の結果は、異なる電子状態計算手法間で同等のU_eff値を用いることは許されず、MT半径に対して導出した固有のU_eff値により同一の基底状態の電子構造が得られることを示唆している。 本手法を金属フタロシアニンに適用した。ここでは、3d, 4d, 5d系の遷移金属元素のMT半径をそれぞれ2.00, 2.40, 2.45 bohrとした。計算の結果、例えば3d系ではおよそ2.5 ~ 3.5 eVのU_eff値が得られ、参考文献と比較したところ同程度の値となった。4d及び5dのU_eff値も導出し、これらから、実験に依らない金属フタロシアニン分子材料の理論的設計のための基礎が構築を構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、前年度に導出した各遷移金属フタロシアニンで得られたパラメータU_eff値を用いた+U法に基づき、はじめに、基板上の薄膜構造を考慮したモデルの基底状態電子配置を調べる。拘束密度汎関数理論に基づくFLAPW計算によりd軌道密度行列に対して拘束場を印加することで占有電子数を制御し、種々の電子配置の全エネルギー計算から最安定構造を探索する。次に、得られた基底状態の電子配置での結晶磁気異方性を評価する。結晶磁気異方性エネルギーは、磁化を基板面に対して平行及び垂直方向としたときの全エネルギー差として定義し、スピン軌道相互作用を自己無同着に考慮する。 具体的なモデルとしては、3d系強磁性Feや強いスピン軌道相互作用を持つ5d系遷移金属のW等を基板として用いる。また、基板上の分子結晶については、構造多形、薄膜の総数、また基板面方位や吸着サイトを変化させ、分子薄膜間や基板界面におけるd軌道混成を調べることで、結晶磁気異方性に対する依存性の起源を解明する。 併せて、f電子系を含む希土類金属フタロシアニンの電子構造及び結晶磁気異方性の解析を試みる。具体的に、サンドイッチ型構造を持つ金属フタロシアニンに注目する。この系では、分子中心に4f電子系の希土類金属が配位する。なお、f電子系では、電子の軌道(固有状態)を軌道角運動量m_lとスピン角運動量m_sが合成された全角運動量(j_m=m_l+m_s)で決定される。故に、これまで、軌道角運動量m_lを良い量子数としてきたが、各j_mの固有状態を持つ軌道に対して拘束場を導入できるよう、従来の拘束密度汎関数理論における軌道密度行列の計算プログラムを改良し、f電子系フタロシアニン分子の磁気特性を調べる。
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