2016 Fiscal Year Annual Research Report
障がい/健康の区分を超えて―「メンタルヘルスの地理」の構築―
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16J07550
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
松岡 由佳 奈良女子大学, 人間文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | メンタルヘルス / 障がいの地理 / 健康の地理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究の全体像と分析枠組みを明確化することを目標に以下の3点に取り組んだ。 まず、先行研究をレビューし、既存研究における不足点や問題点、概念の定義について整理を行った。国内外の障害の地理や健康の地理学に加え、社会学などの隣接分野の研究も参照しつつ、援用可能性のある知見や枠組みの不足点を整理するとともに、本研究の位置付けを確認した。また、メンタルヘルスや空間、地域社会などの概念について、地域福祉なども含めた研究のレビューを行い、用語として登場した背景、各分野における定義や類似表現との相違点などを検討した。 次に、研究対象地域の選定にあたり、複数の候補地で予備調査を実施した。第一に、精神障がい者支援の先進的事例として知られる北海道および和歌山県の障がい者作業所で活動を見学・体験し、取り組みの現状や課題などを把握した。第二に、精神医療の偏在する地域の一例として、福岡県で資料収集やフィールドワークを行い、精神医療と社会・経済的な状況との関連を調べた。これらの調査から、地域の医療・福祉や教育関係者、障がい者やその家族を中心に支援活動が展開されてきたこと、人口減少や基幹産業の衰退などの社会・経済的な状況を背景に、医療・福祉や支援活動の地域的な特性が形成されていることなどを確認した。この他、採用以前より継続している東京都での調査も実施した。また、全国レベルで対象地域の背景を捉えるため、公的機関の統計データを整理し、精神障がい者の医療や福祉に資する機関や資源の地域的な差異を確認した。 以上を踏まえ、研究の枠組みと分析視角の明確化に取り組んだ。理論面での検討と予備調査の結果とを付き合わせ、研究視点の構築を試みると同時に今後の課題を確認した。成果発表としては、東京都の事例に関する知見を日本地理学会大会で報告するとともに、内容の取りまとめを進め、近日中に学術雑誌への投稿を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目的は、研究の全体像および分析枠組みを明確化することであった。この目的の達成のため、先行研究のレビュー、候補とした研究対象地域における予備的な調査、理論面と調査結果を総合した研究視点の検討の3点に取り組んだ。それぞれの進捗状況に対する自己評価は、以下のとおりである。 まず、先行研究のレビューに関しては次のように評価する。地理学を中心とした文献の検討を通じて、既存研究の到達点を理解するとともに、問題設定や分析枠組みに内在する問題点・不足点や、本研究の位置付けを確認できた。隣接分野の既存研究の検討からは、援用可能性のある知見を把握できた。また、メンタルヘルスや空間、地域社会などの概念の整理についても、複数分野の研究を参照することで、各分野における定義や類似表現との相違点などを確認できた。 次に、複数の候補地において現地調査を行ったことで、次の2つの成果を得た。第一に、それぞれの調査地における大局的な動向や現状、課題などを把握した。第二に、候補地間を比較し、研究目的に適う対象地域の選定に照準を合わせる段階まで研究を進めることができた。また、並行して統計データを整理する中で、対象地域の位置付けにあたっての背景的基盤を得ることができた。 最後に、理論面の検討と予備調査を踏まえた研究視点の構築については、次のように評価したい。特に英語圏の地理学における先行研究のレビューを通じ、研究の大きな問題点として、メンタルヘルス研究の中に研究の位置付けや視点、手法が混在している状況を把握できた。これらの混在は、統計調査や聞き取り調査といったデータの収集目的や方法に加え、調査対象を捉える際の立場性など、さまざまな側面の質的な相違と深く関係すると考えられる。この点を確認したことで、次年度以降の具体的な調査計画や理論構築にあたっての参照点を獲得できたことは、貴重な成果であったと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を踏まえ、今後の課題として次の3点を認識している。 第一に、研究の理論的な枠組みや分析視角を精緻化していく必要がある。先行研究のレビューを通じて明らかとなった問題点や不足点を乗り越えるためには、どのような視点や概念構成をもって調査・分析することが最も有効であるか、研究の到達点を見据えた上で、理論的可能性の絞り込みと具体化、精緻化を行っていく。また、先行研究として参照する分野を広げ、より多角的な文脈から研究の位置付けを得ることにも努めたい。 第二に、現地調査を深化させ、実証的な知見の獲得を進めていかなければならない。本年度実施した予備調査の結果を踏まえ、今後、現地での資料収集、参与観察やインタビュー調査を継続的に行っていく。調査結果の分析にあたっては、対象地域における実践の個別性のみに着目するのではなく、関連事項にかかわる全国的な動向やその地域的差異を含めた大局的な文脈に位置付けた考察が求められる。そのため、現地調査と並行して、既存の統計的なデータを含めた各種の関連資料を収集し、整理を進める。以上を組み合わせつつ、実証面での研究成果を蓄積していきたい。 第三に、理論的基盤と実証面における知見との統合が課題である。メンタルヘルス研究の視点や手法の混在状況を整理し、調査手法も含めた研究方法の改善へとフィードバックしていく必要がある。この点に関しては、次のようなステップで研究を進めていく。まず、地理学を中心とする既存研究について、枠組みや分析視角に加え、方法論的な側面からも検討を行う。次に、現地調査と理論面での分析とを個別に行う研究の実施プロセスを再検討する。以上を踏まえ、調査・研究方法を修正・改善する。これらのステップを、理論的な課題の認識や調査実施状況に応じて繰り返し参照することで、研究方法の妥当性を高めるとともに、理論・実証面双方の知見の統合を図っていく。
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Research Products
(1 results)