2016 Fiscal Year Annual Research Report
16-18世紀フィレンツェの美術史記述とウフィツィ美術館成立に関する総合的研究
Project/Area Number |
16J07626
|
Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
古川 萌 東京藝術大学, 美術学部, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | ヴァザーリ / メディチ家 / フィレンツェ / 肖像画 / コレクション |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画において、今年度は、史上初の美術アカデミーであるアカデミア・デル・ディセーニョ(以下アカデミアと記す)と、その創立者であるジョルジョ・ヴァザーリ(1511-1574)の活動をより深く調査することを目標としていた。 そこで、すでに前年度までに調査を開始していた、フィレンツェのサンティッシマ・アンヌンツィアータ聖堂附属「画家の礼拝堂」について、これまでの研究では十分な考察の足りなかった肖像画に光を当て、その役割について理解を深めた。当該礼拝堂で行われていた活動が主にアカデミア会員の葬儀であったことに着目して調査を進めた結果、これらの肖像はこの礼拝堂で葬儀が行われたアカデミア会員たちのものと結論した。この研究結果については、美術史学会東支部例会で発表済みである。 また、コジモ一世統治下におけるフィレンツェで、ヴァザーリの活動がいかにウフィツィ美術館の形成につながっていったかを調査するべく、パラッツォ・ヴェッキオの「カリオペの書斎」とよばれるコレクション陳列室に着目し研究を進めた。16世紀当時の「カリオペの書斎」には、共和制時代のメディチ家から受け継いだコレクションや、トスカーナの美術的優位性を示す古代の遺物、またそれらに君臨する16世紀フィレンツェの作品が並べられ、トスカーナにおける美術の発展が視覚的に了解されるように陳列されていた。報告者はこの点に鑑み、同じくヴァザーリの主要なコレクションとしてよく挙げられる素描集との比較を試みた。 さらに、報告者は3月にイタリアへ現地調査におもむき、「カリオペの書斎」を実際に訪れるとともに、フィレンツェの周辺都市を回り、トスカーナ大公国時代におけるフィレンツェからの文化的影響の有無を調査した。フィレンツェがトスカーナの各都市に対して異なったアプローチをおこなってきたことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
もともとの研究計画では、今年度はアカデミア・デル・ディセーニョにおけるコレクションと芸術家の神話化との関係について調査をおこなう予定だった。しかし調査を進めるにつれ、美術コレクションの文脈においては、アカデミアの活動よりもむしろメディチ家による収集品に着目すべきであると研究の方向を修正した。したがって、今年度はメディチ家のコレクションとその陳列方法を検討したが、それにより、フィレンツェがいかに美術の豊かさをそのアイデンティティの拠り所としているかが浮き彫りとなった。 予定と異なる方法ではあるが、作品の収集と陳列は現在のウフィツィ美術館が形成にダイレクトに関わる問題であり、その起源にコジモ一世・デ・メディチの時代の文化政策を据えることで、次年度の研究の見取り図も描けたように思われる。したがって、研究は順調に進展しているといえるだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、メディチ家におけるコレクション陳列について調査を進めながら、コジモ一世の時代のあとの時代、すなわち17世紀におけるコレクション拡大についても視野を広げていきたい。 具体的には、「カリオペの書斎」に陳列されていた骨董品や美術作品をより詳細に分析し、それを後にウフィツィの最重要作品が陳列される場であったトリブーナと比較する。今年度の研究において、報告者は「カリオペの書斎」をトリブーナの前身的存在であると位置づけたが、コレクション陳列の基準には多少の差異があるように思われる。そうした陳列の方針について明らかにするのが目標である。 また、コジモ一世の時代から時代を下り、17世紀におけるコレクション方針についても目を向け、とりわけフィリッポ・バルディヌッチのコレクション観について理解を深めたい。
|