2017 Fiscal Year Annual Research Report
16-18世紀フィレンツェの美術史記述とウフィツィ美術館成立に関する総合的研究
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16J07626
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
古川 萌 東京藝術大学, 美術学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | ヴァザーリ / フィレンツェ / メディチ家 / コレクション / 展示 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は17世紀におけるメディチ家の美術コレクション形成をたどるべく、枢機卿レオポルド・デ・メディチとその助言者であったフィリッポ・バルディヌッチの活動を精査する予定であった。しかし、昨年度の研究課題であったヴァザーリの活動についての理解がまだ不十分であったことと、報告者の博士論文執筆のため、引き続き16世紀イタリアにおける蒐集と展示について研究をおこなった。 まず、パラッツォ・ヴェッキオに今も残る「カリオペの書斎」とよばれるコレクション陳列室と、そこに置かれた作品の並べ方について調査をおこなった。財産目録やヴァザーリの著した『ラジョナメンティ』を参照して検討した結果、「カリオペの書斎」では、エトルリア、古代ギリシャ、古代ローマの作品を、ルネサンス期イタリアの、14世紀、15世紀、16世紀の作品とともに陳列することで、そこにパラレルな関係を見出し、トスカーナの美術の優位性を誇示するとともに、エトルリアを美術の祖と位置付ける試みがなされていたことが明らかとなった。これについては、美学会西部会例会にて発表済みである。 報告者はまた、「カリオペの書斎」における実践が、その歴史性においてヴァザーリの素描集と共通しているとみて、これについても考察をおこなった。ヴァザーリの素描集は、古今のあらゆる芸術家の素描を満遍なく集め、それを様式の発展にしたがって整理したものだが、ヴァザーリが作家直筆の素描を収録することにこだわっていたことについては、これまであまり指摘されてこなかった。報告者はこの点に鑑み、素描集が芸術家の聖遺物容器のような役割を果たしていたのではないかと考えた。つまり、素描集のそれぞれのページに描きこまれた装飾枠も手伝って、紙の上の建築のようなものとして機能した可能性を提示したのである。これについては、国際シンポジウム「ルネサンス期の建築エクフラシスの魅惑」にて発表済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前述のように、今年度の研究計画では17世紀におけるフィレンツェのコレクションの在りようを調査する予定であった。しかし実際には、報告者の博士論文執筆のため、過去の研究論文の見直しと検討が不十分であった箇所の補強をすべく、引き続き16世紀フィレンツェにおけるコレクションの諸相について考察を深めた。なお、新たに検討した点については学会発表などをおこない、諸専門家の意見を聞いて論を練り上げ、しかるべき場所で活字化する予定である。 したがって、研究の深度は増したとはいえ、計画と比べるとやや遅れているという評価を下さざるを得ない。しかし、質の高い研究結果を残すためには、仕方のない遅れであったと判断する。遅れを取り戻す方策については、次項に記述する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度調査する予定であった17世紀フィレンツェのコレクションについては、来年度前半の課題とする。さしあたっては、中間報告として、先行研究とその問題点をまとめて所属先である東京藝術大学西洋美術史研究室の紀要に投稿する予定である。 また、コレクションの展示方法の変遷についてトリブーナの例を調査しているが、これについて発表するにふさわしい研究結果が出れば、来年度下半期の学会にて発表したいと考えている。
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