2017 Fiscal Year Annual Research Report
Prevention of Statelessness in International Law: A Case Study on Japanese Nationality Law
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16J07839
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Research Institution | International Christian University |
Principal Investigator |
秋山 肇 国際基督教大学, アーツ・サイエンス研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 国際法 / 日本 / 国籍 / 無国籍 / 無国籍の予防 / 国籍法 / 憲法 / 国連難民高等弁務官事務所 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究第2年度である本年度は、行政文書等の一次文献を分析し、国際法における無国籍の予防が日本の国内法に与えた影響を分析する、実態的な調査を行った。一次文献は、外交史料館、国立公文書館、トルーマン大統領図書館(米国)、国連ジュネーブ図書館(スイス)等の訪問および国会会議録から収集した。また外務省や法務省への情報公開請求を行い、行政文書を入手した。 第一に、1889年制定の明治憲法下における、国際法における無国籍の予防の日本の国際法に与えた影響を分析した。1899年の明治国籍法制定の際に、1895年のケンブリッジ決議に言及され、消極的抵触の予防が規定された。 第二に、戦後は国際法における無国籍の予防は日本の国内法に影響を与えなかった。唯一の例外が1947年に制定された日本国憲法の解釈である。憲法第22条第2項に規定される国籍離脱の自由は無国籍になる場合には認められないとの解釈があり、この根拠として国籍法抵触条約前文が挙げられている。その一方で、他の条約における無国籍の予防の規範は日本の国内法の立法・解釈に影響を与えていない。以上から、日本が明治時代には無国籍の予防規範を受容していたが、今日では新たにその規範を受容していないことが明らかになった。 さらに、国際代理出産と無国籍の関連性についての共同研究を前年度から継続して行い、その成果をSwiss Review of International and European Lawに発表した。 また、無国籍の予防における国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と各国の果たす役割を実証的に分析した論文を執筆した。UNHCRの働きかけもあり、有志国が共に無国籍の予防規範の強化に尽力している。その一方で、有志国が特に国内で無国籍を予防する方策を採っていないことも多い。日本国際連合学会でこの分析を報告を行い、修正を加えた論文が『国連研究』に近刊である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、これまで研究されてこなかった日本の国籍法の歴史を紐解き、国際法における無国籍の予防が与えた、もしくは与えなかった影響を示す一次資料を取得し分析を行い、意義深い発見があった。明治時代の1899年の国籍法の制定の際に万国国際法協会の決議に言及されたこと、日本国憲法の解釈に国籍法抵触条約が関連していることは、国際法が日本における無国籍の予防に規範的な源泉を提供していたことを示しており、重要な発見である。また日本の子どもの国籍取得権を規定する人権条約の解釈を示す行政文書を発見し、日本が無国籍の予防の規範を受容しておらず、受容する必要性を見出していないことが明らかになったことは、歴史的な事実を正確に理解するために重要な発見であった。 さらに無国籍の予防に関する国際的な動きについても計画以上の発見があった。国際代理出産と無国籍の問題を指摘した論文の執筆過程で、国際代理出産によって発生しうる無国籍を予防しようとする取り組みがあることが明らかになり、今後今日的な課題に関して国際的な無国籍の予防を検討していく際に重要な発見であった。 UNHCRが無国籍の予防のために果たす役割を論じた論文は、昨年度および今年度ジュネーブ(スイス)で行ったインタビューやUNHCRの資料を丹念に分析したものである。2014年にUNHCRが開始した無国籍を2024年までに終わらせるというキャンペーンについて最新の現状を盛り込んだ論文である。この実証的な事実関係の把握を軸に、日本国際連合学会で報告し質疑応答でのやりとりや、論文の査読プロセスで分析の質を高めた。実証的な研究の価値に、国連研究の枠組みの中で、今後の無国籍の研究の可能性を見出すに至った。歴史的視点を持ちつつ、現代的な課題にも積極的に無国籍を分析することで、幅広い含意をもつ研究になっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、研究の最終年度として昨年度行った実証的な調査をもとに、分析を行い多分野の専門家と議論を行うことで研究の質の向上を目指す。分析では、日本国内、東アジア地域、グローバルの三つを軸に分析を行うことができると考えており、国際政治学の様々な視点を導入して分析を試みる。また、今年度は研究成果の発信に努める。これまで十分に研究されてこなかった日本での無国籍の予防の取り組みや、現代的な国際的な無国籍の予防に向けた動きについて、学会発表や学術誌への投稿を積極的に行っていきたい。
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