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2016 Fiscal Year Annual Research Report

19世紀フランスの作家における反動性の研究―シャトーブリアンからユイスマンスまで

Research Project

Project/Area Number 16J07851
Research InstitutionThe University of Tokyo

Principal Investigator

山崎 百合子  東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特別研究員(DC1)

Project Period (FY) 2016-04-22 – 2019-03-31
Keywordsランセの生涯 / 無名性 / 散逸 / 持続 / 晩年 / 反動性
Outline of Annual Research Achievements

今年度はシャトーブリアンの最晩年の作品である『ランセの生涯』の研究を主に行った。難解を以って鳴る本作品を緻密に分析したものは数少ないが、トラピスト修道会の創立者であるランセ神父の伝記である本作品は作家の反動性を理解する上で非常に重要である。華やかな社交界を離れて修道院で祈りと沈黙の生を送り、碩学であるにもかかわらず断筆して無名の生を送ることを選んだランセ神父について書かれた著作の考察を通じて、本研究ではとりわけ、晩年のシャトーブリアンにおける無名性がいかなるものであったかを明らかにした。一方で、通常の聖人伝の語りの一貫性を持たず、作者の個人的回想、脱線や引用が断片的に入り交じる本作品を論じるにあたっては、テマティズムという手法を用い、作品世界を構成するいくつかの重要な主題に着目し、いっけん切れ切れに見えるテクストが実は細部のイメージの類似によって牽引されていることを示した。『ランセの生涯』について書かれたもので無名性をとりわけ中心に扱ったもの、テマティスムによって論じたものは非常に少なく、ここに本研究の特異性が認められる。
初めに、塵、灰、遺骸という主題を取り上げ、作品世界においてあらゆるものが散逸してゆくことを論じた。続いて墓、発掘という主題を取り上げ、散逸に対して集合の力学も存在すること、執筆もまたそうした散逸に抗うものであると分析し、しかしながら書かれた作品が読まれず、無名になることが不可避の問題として現出することを示した。一方でランセや修道士たちの「無名性」は作品において複層的かつ多様な現れ方をしており、さらにそうした無名性は芸術作品における儚げな美へと繋がるものであることを論じた。無名なもの、儚いものは散逸の運動のもとにあるが逆説的にも散逸に抗いうる持続の比類ない力を有しているのであり、無名性の持つこの持続の力に、晩年のシャトーブリアンは強い興味を抱いていた。

Current Status of Research Progress
Current Status of Research Progress

1: Research has progressed more than it was originally planned.

Reason

今年度は、フランス文学史上最重要の作家の一人であるにもかかわらずこれまで日本でほとんど研究の進んでいないシャトーブリアンの作品、とりわけ難解をもって鳴る最晩年の作『ランセの生涯』に関し、緻密かつ独創的な読解を試み、着実に成果を上げることができた。ジュネーヴ大学のフアン・リゴリ教授からも指導も受けながら、テクストに即した分析をより大きな文化史的パースペクティヴのうちに置き直す努力を積み重ねており、斬新な視野を切り拓きつつある。『ランセの生涯』に関する分析を論文まとめたものが、近々雑誌に発表される予定である。これは主題論的分析によって『ランセの生涯』の詩学を浮き彫りにするとともに、シャトーブリアンの文学的世界の独創性を明らかにした充実した論文であり、わが国におけるシャトーブリアン研究の新たな始まりを画す意義をもつものと言えるだろう。以上のことから、今年度の研究には期待以上の進展が見られたと判断する次第である。

Strategy for Future Research Activity

来年度は主に『墓の彼方からの回想』の読解を中心に研究を行う。 一年目の研究活動で得られた成果、とりわけランセと対比的に規定される作家自身の執筆行為について、回想録の分析を通じてさらに検討を深める。本作品が象徴的な自伝、叙事詩としての回想録として構想されたこと を踏まえ、記憶の喪失と蘇生について、とりわけ「書くこと」をめぐる自己言及的なエクリチュールと「断片化」の主題に注目して分析する。
また死者の身体の腐敗、蘇生といったテーマが当時の医学、科学的言説においてどのように取り扱われていたかを調査し、それがシャトーブリアンのエクリチュールに与えた影響がいかなるものであったかを明らかにする。
さらに一年目の研究成果をまとめながら、博士論文執筆にむけて一部を論文として作成し、学術雑誌に投稿する。 またフランス文学の研究者に加えて同時代を研究する隣接する他分野の若手の研究者とも交流を行い、自分の研究成果の公開方法について検討する。

  • Research Products

    (1 results)

All 2017

All Journal Article (1 results) (of which Peer Reviewed: 1 results,  Open Access: 1 results)

  • [Journal Article] 散りゆくものの形象:シャトーブリアン『ランセの生涯』の主題論的読解2017

    • Author(s)
      山崎百合子
    • Journal Title

      仏語仏文学研究

      Volume: 50号 Pages: 印刷中

    • DOI

      in Press

    • Peer Reviewed / Open Access

URL: 

Published: 2018-01-16  

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