2017 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀フランスの作家における反動性の研究―シャトーブリアンからユイスマンスまで
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16J07851
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山崎 百合子 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 死 / 墓 / 反動 / 埋葬 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度扱った主題のうちシャトーブリアンの作品群を貫いて存在する重要なテーマである「死」、とりわけ墓や埋葬、腐敗、断首といった主題を歴史的、文化史的なパースペクティブのもとに置き直して、関係するほかの作家のテクストをはじめ、多様なジャンルに属する資料に依拠して、より俯瞰的な視野から分析することを試みた。 まず、フィリップ・アリエスなどの歴史家の著作を主な手がかりに、中世から現代に至るまでの西欧における死の観念、埋葬の慣習などの歴史的な変遷を概括的に整理し、本研究の主要な検討の対象となる18世紀後半から19世紀にかけて、衛生学の発達などいくつかの要因により葬送の慣行や墓の在り方が社会的、物理的変化を被り、またそれに伴って死と死者に対する感性も決定的に様変わりしたことを確認した。 シャトーブリアンの作品中にある様々な死の形象は、ある程度までは確かに歴史家が提示するような「死」の同時代的な特徴を持ち合わせているが、そうした感性を前提とした上でむしろ中世的、前時代的な「死」がある程度の強度を以って描かれていると見做しうるものもあり、歴史的かつ集合的な意識の変遷に対して、ねじれを伴う緊張関係にある。作家の置かれた歴史的位相における死の表象の不/可能性という視座から、作品中の死、そして虚無の表象について検討することは、本研究課題の遂行に当たって重要である。従って今年度は、前年度主題論的分析を行った最晩年の『ランセの生涯』に加えて初期の『キリスト教精髄』『アタラ』『ルネ』および後期『墓の彼方からの回想』らの作品における死の形象を歴史・文化史との関わりから詳細に検討し、本作家における反動性についての考察を深めた。続いて、死の形象という観点から、本研究課題の対象となる18世紀末から19世紀にかけての文学作品を取り上げ、シャトーブリアンとの比較考察を軸に分析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「死」という主題はシャトーブリアンにおいて極めて重要であるが、今年度は実社会における「死」の扱われ方とその歴史的変遷を調査し、文化史的なコンテクストを踏まえた上で作家のテクストの特異性について検討することができた。また昨年度は主に最晩年の作品である『ランセの生涯』を中心に研究を進めたが、今年度は最初期の作品群や後期の代表作『墓の彼方からの回想』をも丹念に読解し、また本研究課題の対象となる時代の文学作品を広く読み込む事で、より重層的な理解を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、今年度までに得られた成果をもとに、シャトーブリアンにおける個人的記憶、集合的記憶を分析し、記憶と執筆の問題に関する作家の特異性を明らかにする。上記の問題について、同時代から19世紀後半に至るまでの他のロマン主義文学と比較考察する。その上で、シャトーブリアンににおける反動性について再検討する。
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