2017 Fiscal Year Annual Research Report
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16J07927
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須藤 輝彦 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | ミラン・クンデラ / 中央ヨーロッパ / 啓蒙主義 / 偶然性 / 運命 / 歴史 / チェコ / 世界文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
特別研究員である筆者は、2017年4月より1年間、精力的に研究に励んだ。所属する学内では、夏学期には主にフランス文学系の講義を、秋学期には「〈偶然〉という回路」や、戦後チェコ文学を代表する小説家「ボフミル・フラバル研究」を受講した。また、中欧文学研究のうえで必要となるドイツ語の講義にも出席し、「ロシア中東欧の映画と文学」ではティーチング・アシスタントも務めた。 学会での発表も積極的に行った。2017年度は、まず「世界文学・語圏横断ネットワーク研究集会」で「クンデラと世界文学──視差効果としての亡命」(2017年9月、同志社大学)、ついで「日本フランス語フランス文学会」で「ディドロとクンデラ──運命と歴史のテーマをめぐって」(2017年10月、名古屋大学)を、さらに年度末には「日本スラヴ学研究会」で「ミラン・クンデラにおける歴史と運命」(2018年3月、東京大学)という3つの発表を行なっている。それぞれ異なる学会での発表であり、多様な視点から学的刺激を得ることができた。とくに後半のふたつの発表は、これまで研究の重要テーマであった運命と歴史という概念の関係を見つめなおし、それをフランス文学(啓蒙思想)と中央ヨーロッパ文学という文脈において多角的に考えることのできた貴重な機会だった。 論文としては、先に触れた「世界文学・語圏横断ネットワーク研究集会」での発表を元に、「亡命期のクンデラと世界文学──『笑いと忘却の書』における語りの視差」(『れにくさ』第8号、2018年)を執筆した。これは世界文学や亡命といった大きな観点からクンデラ作品を読むという試みで、筆者の今後の研究に広がりをもたせる契機となる重要な論文である。 そのほか、チェコセンター東京にて、20世紀チェコを代表する作家カレル・チャペックについての展示「変わらぬ原作、変わり続ける翻訳──日本とK・チャペックの文学」に協力した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究は、かなり順調に進んでいると言える。【研究実績】の欄でも述べたが、「世界文学・語圏横断ネットワーク研究集会」、「日本フランス語フランス文学会」、「日本スラヴ学研究会」という3つの異なる学会で研究発表ができたことは筆者にとってはひとつの達成であった。研究対象であるミラン・クンデラは、ひとつの国家的ないし地理的文脈で考えることの難しい多面的な作家であるということを改めて確認することができた。 筆者の研究は、ミラン・クンデラという作家の、大きくいえば二つのテーマ系を、三つの文脈で捉えることを目標としている。テーマ系とは、①偶然性と運命、そして②世界文学論。文脈とは、A. チェコ文学、B. 中央ヨーロッパ文学、C. (フランス)啓蒙主義である。①については大学でのリレー講義「〈偶然〉という回路」で、多分野にまたがってこの概念の深さと広さを学んだ。②に関しては「世界文学・語圏横断ネットワーク研究集会」での発表(「クンデラと世界文学──視差効果としての亡命」)と、「亡命期のクンデラと世界文学──『笑いと忘却の書』における語りの視差」(『れにくさ』第8号)がその成果である。A.とB.については「日本スラヴ学研究会」、C.については「日本フランス語フランス文学会」での研究発表(それぞれ「ミラン・クンデラにおける歴史と運命」、「ディドロとクンデラ──運命と歴史のテーマをめぐって」)に直結している。まだまだ不十分ではあるが、それぞれの研究領域でいくらか足場を固めることができたと自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】の欄でも述べたが、本研究はチェコ文学、中央ヨーロッパ、さらに(フランス)啓蒙主義と、多分野、多語圏にまたがる研究であり、それぞれの領域における学術的・語学的専門知識を十分に得ることがまず肝要である。中欧文学論に必要なドイツ語は鋭意学習中であるが、フランス語、チェコ語の能力も更に高めなければならないだろう。 筆者は9月よりパリ第4大学大学院のスラヴ学研究室、中央ヨーロッパ専修コースにて長期研究滞在をしたいと考えているが、ここは以上のアプローチで研究を進めていくのに理想的な場所であると言える。この研究室にはチェコ文学の専門家はもちろん、ポーランドやハンガリー、さらにオーストリアなどの隣接する国家の専門家も所属しており、中欧という多様で複雑な土地で生まれた歴史・文化・言語を学ぶにはうってつけだろう。さらにおなじくパリ大学の他学部での講義を聴講し、18世紀啓蒙主義についての思想や文学についての見識を深めるつもりである。これまで続けてきたクンデラ研究を、上に記した3つの文脈──チェコ、中欧、啓蒙主義──に沿って総合することが2018年度の目標となる。 なお具体的な研究成果としては、6月に「日本フランス語フランス文学会」でクンデラにおける運命についての研究発表(および論文執筆)を行い、「日本スラヴ学研究会」では先年度末の学会発表をもとにに論文を投稿する予定である。本年度は海外の研究会やシンポジウムにも積極的に参加したいと考えている。
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Research Products
(4 results)