2016 Fiscal Year Annual Research Report
文学における「ことば」と「声」― 新たなシネステジアを求めて
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16J08503
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
孫 惠貞 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 声と文学 / 文学的身体性 / 朗読 / ポエトリーリーディング / 文学マルチリンガルリズム / 文化横断研究 / 文学パフォーマンス研究 / 現代文学研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
「文学における声」をテーマとする本研究は、ドイツ在住のバイリンガル作家・多和田葉子を中心に、既存の「国」や「言語」によって分類されてきた「文学」から、そのような「線引き」では定められない「間」に存在する「文学」がいかに人間の本質に向き合っているのかに着目し、その特徴として現れる「身体性」とりわけ「声」に注目している。 具体的には、執筆だけにとどまらず「朗読」というパフォーマンスを通じて世界各地を回りながら「文学」の垣根を取り払う多和田葉子の文学活動における「声」を主な題材とすることで、文学における「声」の意味を見出だし、その行く先を見据える「朗読研究」である。これまでの先行研究が少ない分野であり、また文学研究において「文字」によるものだけでない「音」特に、一過性のパフォーマンスは資料が探しにくく扱いにくいため乏しいのが現状である。そのため特別研究員DC2の初年である28年度は、主に資料の制作と収集に取り組んだ。
<記録撮影> 実際にビデオカメラを持って1)多和田葉子の世界的活動に密着、日本をはじめフランス、ドイツ、アメリカで行われた朗読パフォーマンスを記録撮影 2)他国現地の朗読文化状況。これらの映像記録は分析資料でありながら、今後博士論文の一部へと成り得るするドキュメンタリー「文学と声」(仮)の制作基盤となる。 <資料収集> ①ドイツのベルリンの多和田葉子の自宅に数回訪問、80年代から現代まで記録として残されている資料(カセットテープ、CD、DVD、ビデオテープ)をメディア別に整理、データ化作業 ②博士論文で大きく扱う朗読パフォーマンス『晩秋のカバレット』の制作過程にドイツで参加、資料収集 ③日本の現代文学の朗読資料がアーカイブ化されている日本近代文学館のビデオ資料(『声のライブラリー』)を視聴および分析資料作り ④資料撮影に訪れた各国の大学の図書館で資料調査および現地調査。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究はおおむね順調に進展している。科研費申請の際に計画していた国内及び海外の朗読文化リサーチのための資料撮影、資料収集なども問題なく達成した。
計画通りアメリカ、フランス、ドイツ、日本国内のリサーチ及び記録撮影による資料作りは無事に行うことが出来た。しかしいくら節約し、タイトに計画を立てても、自身の計画以上に渡航費用がかかり、計画したすべての国を回ることは出来なかった。同時に、科研費制度の制約により、予定していたリサーチに必要な機材(三脚、レンズ、補助カメラなど)や、資料化するための編集機材(編集用マッキントッシュ、ハードディスク、記録のためのメディア機材など)、またテクニカルな面で助けを求められる人材などを充分に揃うことが出来なかった。 また、28年度は、博士論文を書く上でもっとも重要視されるほぼ資料(映像やパフォーマンスの実際資料)が皆無に近いという現状を踏まえ、資料制作および収集を行うことが主な目標だった。その為、一年間資料収集に主力を注いだことは目標を達成したと言えるが、学会などで発信する機会を作ることは難しかったため、当初の計画以上に研究が進展したとは言い難い。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、これまで撮影してきた資料などを編集または資料化、先にはドキュメンタリーという形にしてアウトリーチに貢献出来るようなところまで至るように、現在の研究状況に関する予算の配分や計画の実現可能性などに対する問題点を充分に考慮し、解決に挑みたい。その解決策として、今後の研究推進を考える上で、どこまで研究の枠を設定するかをはっきりし、資料の多様さに重視するか、ひとつの資料をもっと形にするかなどを考える必要があると感じた。
また、資料収集にだけにとどまった昨年度における反省点をふまえ、今後は積極的に国内外の学術誌や学会などで積極的に発信して行きながら、さまざまな現状や意見を取り入れた上で研究を進めていきたい。
これまであまり注目を浴びることがなかった報告者の研究テーマである「文学における声」だが、今年度から『声と文学』をテーマと文芸誌や研究書籍が少しずつではじめている。徐々に関心を寄せている分野でもっと発信出来る場が増えることを期待しながら、資料収集および発表、また博士論文の完成に向けて尽力したい。
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