2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J08742
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山口 早苗 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 上海 / 日中戦争 / 文学 / 新聞 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、特に日中戦争期を取り上げ、日本占領区に残留した中国知識人の日本認識を探るものである。当該時期、日本占領区であった北京や上海には多くの知識人が滞在していたが、彼等は多かれ少なかれ日本人と交流を持ち、日本と関連する組織に参加せざるを得なかった。本研究は、そうした彼等の戦時中の言論活動・思考形態を、占領地で出版された新聞・雑誌記事を材料に探るものである。 これまで日本占領下で活躍した知識人のうち、周作人・銭稲孫等比較的著名な人物については複数の研究がその実態を明らかにしてきた。本研究で注目するのは、現在は著名な人物ではないものの、当時の占領地の文壇を実務面で支えた知識人達の活動である。具体的には、当該時期に雑誌・新聞の編輯者として活躍した陶亢徳・周黎庵・周越然等に焦点を当てる。 特に本年度は、陶亢徳という編輯者に関して主に研究を進めた。陶亢徳は戦時中上海に残留し、対日協力政権であった汪精衛政権の発行した機関紙『中華日報』の編輯にも携わった人物である。中国国内では、陶は日本に与した民族の裏切者として評価され、先行研究がほとんど存在しなかった。本年度は彼が主編を務めた『中華週報』等の新聞雑誌を考察対象とし、彼の戦時中の活動を全面的に明らかにした。ここから、政治に対する言論から距離を置き、自国の文化の保全を第一義とした彼の姿勢を確認することができた。このように、今後の研究においても、これまでの「抵抗」と「協力」という評価軸から離れ、実際の文化人の活動を基に彼等の思想を探ることを目標とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、日中戦争期占領地で活躍した知識人の中でも陶亢徳という人物に関して集中的に調査を行った。陶亢徳に関して主に日本国内で収集した資料を基に、二度の研究報告を行った。これは陶の活動を孤島時期(1937年8月~41年12月)・淪陥時期(1941年12月~45年8月)に分けて論じたものである。陶亢徳に関しては日本で収集できる資料が乏しく、中国国内で資料を調査する必要が生じた。そのため、本年度は二度中国国内で資料調査を行った。具体的には、上海図書館・上海市档案館・中国国家図書館を訪れ、関連する資料を収集した。研究報告の内容に資料調査の成果を反映させ、「日中戦争時期上海文壇再考―編輯者陶亢徳に注目して」という題目で論文を執筆した。すでに学術誌に投稿したものの、現時点では採用結果がわからないため実績には含んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度に得られた知見や国内外で収集した資料を基に、更に研究対象を広げ、戦時期上海の文壇状況を数名の文化人を取り上げ、彼等の活動内容・思考形態を考察してゆく。具体的には、陶亢徳と同様に対日協力政権に参与した知識人である周黎庵・周越然・潘序祖に関して調査・研究を行う。彼等は皆上海文壇の中でも、著名な文化人であったが、戦後彼等の活動はほとんど顧みられることはなかった。彼等の活動内容を明らかにするため、再度中国国内で調査を予定している。これまでは主に上海にて資料調査を行っていたが、今後は南京の南京市档案館・中国第二歴史档案館や台北の中央研究院でも関連する資料を収集したい。これらの収集した資料を基に現代中国学会等で研究報告を行う。これをもとに論文を執筆し、年度内を目途に専門雑誌に投稿する。
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