2017 Fiscal Year Annual Research Report
長期持続条件を考慮した企業立地原理―個別企業データの定量的分析を通じて―
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16J08759
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福田 崚 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | イノベーション / 国土構造 / 企業間ネットワーク / 出身地 / 地域経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
理論面では、地理学や経済学の観点から、本研究で問題にしている、長期継続諸要因が企業の活動に影響する経路を整理した。企業の外部要因/内部要因、紐帯の強さ、継続性など様々な比較軸でまとめている。これに加えて、都市計画・産業政策の観点からの企業行動への影響もまとめ、以下の実証分析の礎を整備した。 実証面では、前年度に引き続き、日本企業の個別データを用いた分析を行い、主として以の三つの成果を得た。 第一に、前年度から取り組んでいた、イノベーションと企業パフォーマンスの関係について、さらなる精緻化を進めた。様々な地域の環境、特にインフォーマルなコミュニケーションを支えるような場所が、特に低次なイノベーションを促進する傾向にあることを示した。イノベーションの実証の観点からも、知的スピルオーバーの観測の点で、従来にない実証になっており、価値がある。 第二に、人材の地域的流動が企業のパフォーマンスに及ぼす影響として、代表者の出身地を用いた分析を行った。外部から流入する人材によって確保される人材の多様性が、企業の生産性向上につながることを示した。また、地域全体で見ても、少なくとも産業の多様性を高めることは明らかになっている。この成果は、人口の地域外からの流入が、数十年単位で影響を及ぼすことを示すものである。 上の二つと並行して、これも前年度からの継続であるが、マクロスケールからの分析として、企業間ネットワークを通じた国土構造の把握に努めた。結果は、依然として旧来からのヒエラルキー構造が卓越していることを示すものであった。しかし小企業では相対的に水平的なネットワーク構造があることが明らかになっており、地域経済の振興・イノベーションの観点からこれらの企業へ着目することを正当化するものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画と比較して、想定通り進んでいる箇所、計画にはないが状況の変化により進捗した箇所、計画通りには進んでいない箇所がある。 第一に、平成29年度における研究の主要な部分の一つである、理論的な整理とイノベーションと企業パフォーマンスの関係については、上記の業績報告にも記したように、概ね当初の予定通りの成果を得ることができた。 これに対し、「研究実績の概要」の実証分析における第二点目・第三点目の「人材の地域的流動が企業のパフォーマンスに及ぼす影響」および「企業間ネットワークを通じた国土構造の把握」は、企業データベースを用いて実施しており、当初の平成29年度の計画では存在しなかった分析である。理論的な整理を行う中で、より企業内部要因について、あるいは全体的な国土構造について理解を深める必要があると判断したため、追加したものである。加えて、当初の想定以上に潤沢な企業データベースが得られたために、アンケートや社史で実施予定であった一部分析を代替することも可能になった。その結果、上述の通り、一定の成果を上げることに成功した。 半面、アンケートの実施や社史の分析は当初の予定通りの進捗は得られなかった。しかしながら、社史資料の収集や基礎的なヒアリングは実施しており、成果としてまとめるには至っていないものの、材料は蓄積されている。平成30年度において、当初計画した実証を行うための環境は十分に整っている。 以上の経過に基づいて総合的に判断すれば、進捗度にむらがあり、必ずしも計画通りとは言えないものの、進捗度としては十分なものであるといえる。平成30年度に課題が達成できると予見しうる基礎も整っており、おおむね順調であると判断することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は最終年度であり、前年度からの延長でさらなる理論・実証分析を進めるとともに、成果をまとめることを意識して研究を進める。 まず、理論面については、前年度までの成果に加えてさらなる深化をめざす。学位論文の執筆も並行して進める中で、体系的な整理を行う。経営学等の企業の視点からの検討が不足しているので、その分野に重点的に取り組む。 実証面については、第一に「研究実績の概要」で示した成果の精緻化に取り組み、より頑健な知見を得る。現在得られているデータで完全に活用できていない部分も多々あるので、統計的な分析手法を含めて、再検討を進める。例えば、第二点であれば個別企業レベルでの分析にとどまっているので、地域全体で実証したい。 もう一つの大きな要素が、研究計画の中で未達である部分の完成である。「現在までの進捗状況」に述べたように、当初29年度に予定していた歴史的な分析はいまだ不充分である。企業データベースから潤沢なデータが得られた事実も踏まえ、社史やアンケートとの検証の方法の再検討も含め、今年度中に分析成果が上がるよう努めていく。特に前者についてはデータの収集が相当程度進捗しているので、これを活用するところが平成30年度の取り組みの中心をなす。具体的には、各企業の情報のインプットの経緯を把握し、地理的側面との関係を理解することに努める。いずれにせよ、年度前半のうちに主要な作業が完了することを目指し、年度後半は最終成果をまとめることを進める。 以上の点を進めるにあたり、学会等で積極的に発表を行い、他の研究者の意見を参照するとともに、未だ公刊されていない前年度以前の正かも含め、論文の形式でまとめることに注力していく(現在すでに複数の論文を投稿中である)。
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