2016 Fiscal Year Annual Research Report
精神分析への態度の変遷からみたドゥルーズ哲学における強度概念の成立と進展の研究
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16J08834
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鹿野 祐嗣 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 哲学 / 精神分析 / 思想史 / ドゥルーズ / 現代フランス哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
報告者は、平成28年4月1日から日本学術振興会特別研究員PDに採用され、受入機関である東京大学の鈴木泉研究室にて研究活動を開始した。研究課題名は「精神分析への態度の変遷からみたドゥルーズ哲学における強度概念の成立と進展の研究」であり、ドゥルーズの『差異と反復』(1968)から『意味の論理学』(1969)を経てドゥルーズとガタリの共著『アンチ・オイディプス』(1972)にまで至る存在論的な枠組みの変化、とりわけ「強度」概念の成立と進展の過程を、ドゥルーズの精神分析理論に対する評価とその使用法の変遷との相即的関係という視点から解明していこうとするものである。 前年度は、以上のような研究課題に基づきつつ博士論文の執筆に集中し、すべての研究活動をそこに収斂させていった。そのため、個々の学会や雑誌での研究発表こそ何もしていないものの、原文の引用も含めて100万字にのぼる大部の博士論文を完成させるに至った(逆に言えば、博士論文が量においてもテーマにおいても規模が大き過ぎたため、学会発表や雑誌論文にふさわしい小規模の研究の遂行とは両立しえなかった)。報告者の博士論文「ドゥルーズの『意味の論理学』の注釈と研究――出来事、運命愛、そして永久革命――」は、2016年12月に早稲田大学に提出され、2017年3月に藤本一勇主査、鈴木泉・江川隆男・立木康介・村井翔副査の下で口頭審査を終えた(博士号は2017年4月に取得)。博士論文は、題名が示すようにドゥルーズの主著『意味の論理学』の全体に注釈を加える研究論文であるが、PDとしての研究課題である「精神分析への態度の変遷からみたドゥルーズ哲学における強度概念の成立と進展の研究」もその中に含まれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者が完成させた博士論文「ドゥルーズの『意味の論理学』の注釈と研究――出来事、運命愛、そして永久革命――」は、題名が示すように、ドゥルーズの主著『意味の論理学』の全体に注釈を加える研究論文であり、PDとしての研究課題である「精神分析への態度の変遷からみたドゥルーズ哲学における強度概念の成立と進展の研究」もその中に含まれている。実際、報告者は三章構成からなる博士論文の第二章の第一節にて、『差異と反復』から『意味の論理学』の間で精神分析への態度の変化が存在論的な枠組みの変化と連動して起きていることを指摘し、「強度」概念の内容が両著作の間で変わっていること、また『アンチ・オイディプス』に至るとさらに別の精神分析への態度と存在論的な枠組みが現れることを示した。ただし、博士論文の主題はあくまでも『意味の論理学』であり、そのために必要な範囲でそれなりに『差異と反復』には言及したものの、『アンチ・オイディプス』にはそれほど踏み込む余裕がなかった。したがって今年度からの研究は、『アンチ・オイディプス』の研究に軸足を移し、そこで精神分析と存在論がどのように連動して変化していくのかをより厳密に研究していくことに注力していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度からは、ドゥルーズとガタリの『アンチ・オイディプス』の本格的な研究に着手すべく、そのための準備作業に取り組む。報告者の最終的な目標は、「強度」と「器官なき身体」の概念が前二著作からどのように変容したのかという点に着目しながら、存在論的な枠組みの変遷がライヒやマルクーゼ、レインの反精神医学への傾倒とどのように関連しているのかを明らかにしていくことにある。またその際、『差異と反復』と『意味の論理学』の二著作と『アンチ・オイディプス』との間にある存在論的かつ精神分析理論的な大変動から、ガタリがドゥルーズに与えた影響とは何であったかという大きな問題に一つの解を与えることにも積極的に取り組んでいく。 ただしそのためには、『アンチ・オイディプス』の著作全体を体系的に理解する必要があり、その前提としてさらにマルクス主義および1970年までのラカンの精神分析理論に通暁していることが要請される。よって、本年度からの研究は、『アンチ・オイディプス』の読解を視野に入れつつ、マルクス研究と主に60年代のラカン理論の研究とを並行して進めていく必要がある。当然、成果が得られるまでには数年単位の時間がかかるが、これは最終的に量・質ともに博士論文と同等以上の著作に結実していくはずである。
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