2016 Fiscal Year Annual Research Report
ヤノクチナガオオアブラムシの共生アリ種に対する化学物質を介した地域適応の検証
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16J09182
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
山本 哲也 信州大学, 総合工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | アブラムシ / アリ / 共生 / 地域適応 / 体表炭化水素 / 進化生態学 / 化学生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
生物間相互作用へ参加する種の地理的変異によって生じる地域適応を明らかにするためには、最初に相互作用系の参加者を様々な地域で確かめる必要がある。そこで、今年度は本研究で注目している生物種(ヤノクチナガオオアブラムシとその共生アリ種)の組み合わせが地理的に異なるかを確かめた。この結果、特定の地域間(長野県松本市-東京都東村山市狭山丘陵)でアブラムシと共生するアリ種が異なることがわかった。長野県松本市において共生アリ種は、クロクサアリが高い割合を占めていたのに対し、東京都狭山丘陵ではトビイロケアリが高い割合を占めていた。これらのアリ種は、アブラムシに対する随伴方法が大きく異なる。トビイロケアリは、幹上で吸汁しているアブラムシを保護する構造物を土などで作成し、その内部でアブラムシに随伴する行動を示した。一方でクロクサアリは、アブラムシを保護する構造物を作らず、多数の個体がアブラムシを取り囲むようにして随伴する行動を示した。このことは、共生アリ種間でアブラムシに対する行動が大きく異なることを示している。 また、地域適応を明らかにするためには適応形質の地理的変異を検出する必要がある。ヤノクチナガオオアブラムシが共生アリ種からの攻撃を避け、捕食頻度を低下させるのに体表炭化水素を利用していると考えられている。そこで、異なるアリ種と共生している地域間(長野県松本市-東京都東村山市狭山丘陵)でアブラムシの体表炭化水素の比較を行った。この結果、アブラムシの体表炭化水素が地域間で異なることが明らかになった。このことは、それぞれの地域で異なる体表炭化水素をもつことで地理的に異なる共生アリ種に対して適応していることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、ヤノクチナガオオアブラムシが地理的に異なる共生アリ種に対して様々な形質によって地域適応していることを示すことである。そのためには、①地域間で主な共生アリ種が異なること、②注目した地域間でアブラムシの共生アリに対する適応形質に変異が存在すること、③その形質の地理的変異がそれぞれの地域で他地域のものより生存に有利であることを示す必要がある。今年度はアブラムシと共生するアリ種の組成が地域間で異なること、アブラムシ保護方法が各地域の主な共生アリ種ごとに異なることを明らかにした(①)。さらに、アリの巣仲間認識物質である体表炭化水素に着目し、各地域の主な共生アリ種間においてその体表炭化水素の組成が異なること、共生するアリ種の異なる地域間においてアブラムシの体表炭化水素の組成や組成比が異なることを明らかにした(②)。これらのことは、アブラムシが地理的に異なる共生アリ種との共生維持のために、地域間で異なる体表炭化水素を獲得するという地域適応が生じていることを支持する結果であり、研究1年目の成果としては十分であると考えられる。そのため、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は当初の研究計画に従い、アブラムシの体表炭化水素が共生アリ種の攻撃行動にどのような影響を与えるのかについて調べる。体表炭化水素はアリの巣仲間認識物質として利用されているため、アリは自身がもつ体表炭化水素と異なる体表炭化水素をもつ対象に対し攻撃性を示す。そのため、アブラムシが共生アリ種に対して体表炭化水素によって適応しているのであれば、アブラムシの体表炭化水素の変異に対し共生アリ種は行動を変化させると予測される。そこで、共生するアリ種の異なる各地域(長野県松本市および東京都狭山丘陵)のアブラムシから抽出した体表炭化水素をそれぞれの地域で共生関係を結んでいるアリ種に提示し、アリの体表炭化水素に対する行動(攻撃行動の有無、攻撃持続時間)を記録し比較する。 また、アブラムシの甘露成分(含有される糖の種類と比率)は、アブラムシがアリとの共生を構築、維持するうえで重要である。そこで、地理的に共生アリ種が異なった場合、アブラムシの排出する甘露成分が異なるかどうかを明らかにする。長野県で行った予備調査により、長野県と東京都の主な共生アリ種であるクロクサアリとトビイロケアリはそれぞれ選好する糖成分が異なっていた。そのため、アブラムシの甘露中に含まれる糖の種類と比率が共生アリ種の異なる地域間で変化していることが予測される。そこで、来年度は東京都においても2種のアリが糖に対して異なる選好性をもつこと、アブラムシが地域間で異なる糖成分を含む甘露を排出していることを明らかにする。まず、東京都において2種のアリに様々な糖の溶液を提示し、誘引されるアリ個体数を比較する。さらに、長野県と東京都においてアブラムシの甘露をマイクロキャピラリーによって採集し、高速液体クロマトグラフィーを用いて甘露内の糖の種類と比率を分析することで、地域間でアブラムシの甘露に含まれる糖成分を比較する。
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Research Products
(5 results)