2016 Fiscal Year Annual Research Report
カザンザキス文学における現代ギリシア人像:ギリシア・ナショナリズムの観点を中心に
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16J09233
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
福田 耕佑 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | カザンザキス / ギリシア・ナショナリズム / ディアスポラ / ポントス人 / 生存 / 第一次世界大戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はカザンザキスのナショナリズム的な思考を表す文学上装置として、ギリシア人の難民に着目した。通例ギリシ・ナショナリズムにおいては、ギリシアを表す装置として古典古代世界の栄光にあふれる姿を描く場合が多く、カザンザキスがギリシア・ナショナリズム的要素を表現する際に、現代のギリシア人や現代ギリシアの難民に着目していたことを明らかにしたことは本研究の成果である。そして申請書類に記した課題①の、カザンザキスの晩年の動向とギリシア・ギリシア人観に関する分析を達しえすることができた。課題①で得られた途中成果はギリシア国にて報告する機会がえられてが、全体をまとめて、平成29年度には可能な限りここまでの成果を論文や顔応答発表の形で報告したい。 平成28年度は日本の論文を執筆し受理された。福田耕佑、「カザンザキスの思想とギリシアナショナリズム―彼の思想の根本と文学作品のライトモチーフとしての「叫び」の観点より―」、エイコーン第15号、東方キリスト教学会、2016年5月(投稿論文・査読あり)、と 福田耕佑、「第二次世界大戦期におけるニコス・カザンザキスの文学活動-「ギリシア性」の探求を中心に」、プロピレア第22号、日本ギリシア語ギリシア文学会、2016年8月(投稿論文・査読あり) である。特に二本目の論文は、現代ギリシア語と現代ギリシアを専門的に扱っている日本で唯一の雑誌であり、ここに投稿し受理されたことは大きな成果であった。また発表業績としても、東方キリスト教圏研究会、第14回例回、「第二次世界大戦とヘレニズム―カザンザキスの文学作品分析を中心に― 」、口頭発表、京都大学文学研究科新館、2016年6月、等の学術発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記した平成28年度分の課題①を概ね達成した。今年度は昨年度得られた成果を論文や口頭発表の形で報告していきたい。 そして課題①の遂行中に、さらにこの難民がディアスポラのギリシア人であるポントス人が投影されていることを発見したことあ予想外の成果であった。これまで文芸雑誌などでカザンザキスの作品に登場するギリシア人難民がポントス人の投影である事が指摘されていが、本研究は、カザンザキスが1919年にヴェニゼロス内閣の厚生局局長としてポントス人難民のギリシア本国への帰還支援に携わった経緯を調査し、また彼の第二次世界大戦から晩年に至る文学作品を分析した。この中で、実際にカザンザキスが、ポントス人難民達がコーカサス地方で迫害される姿を目にするとともに、ギリシアでの定住支援を行うなど個人的に深くポントス人たちと接触する機会を多く持っていたことを明らかにした。またカザンザキスのポントス人達との体験が、晩年に至るまで直接的にポントス人として書き続けられていること、また「難民」、「生存」、「父なる大地」等の重要なキーワードを通して、間接的にも文学作品の中に描かれていることを明らかにした。 さらに重要な点として、ポントス人がカザンザキスにとって人生の中で出会った一つの集団や人生の中での一つの出来事というにとどまらず、彼の「難民」表象を通して、「ギリシア性」やギリシア・ギリシア人観を考察し語るうえで欠かすことのできない重要なモチーフであり、彼の普遍的な思考や思想の源泉の一つとなっていることを明らかにした。ここで得られた途中成果を、東方キリスト教圏研究会、第二十一回例会、「ギリシア文学におけるギリシア人難民表象ー20世紀のポントス人の事例を中心にー」、口頭発表、京都大学文学研究科新館第六講義室、2017年3月、の形で報告した。今年度は課題②と合わせて、この観点も完成させたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、課題②念頭に置きながら、カザンザキスの誕生から、ポントス人との接触を経た1922年のギリシアの小アジア撤退までについての課題を整理する。本稿作成者はこの時期の全てのカザンザキスの作品を入手している。ただし、そのうちの半数ほどしかまだ分析できていない。しかしこの時期の作品は文学的な技巧を凝らすことに意識が傾けられており、また恋愛や男女関係をトピックとして扱うことも多く、管見の限り「ギリシア性」の探求が行われている作品はほとんど見受けられない。しかしあくまでも彼のギリシア・ギリシア観を中心に分析を行い、この時期の彼の文学作品の傾向や技巧に関する研究は最小にとどめたい。 また前年度偶発的に発見した、カザンザキスとギリシア人難民・ポントス人に関する研究ついて説明する。確かにディアスポラのギリシア人やポントス人はこの時期カザンザキスの作中に登場しないが、彼のギリシア・ギリシア人観に大きな影響を与えたと本稿作成者が明らかにしたポントス人についての概略をここまでで紹介した先行研究を用いながらさらに充実させる。特にカザンザキスが厚生省局長として難民支援事業の中で彼らに接触する1919年までの彼らが置かれていた状況についてさらに詳細に調査を行いたい。またギリシア本土に帰還したポントス人たちが、本土のギリシア人とどのように関係をもっていたのか、また本土のギリシア人達はポントス人に対してどのような意識を持っていたのかを明らかにしたい。最後にポントス語で著作を行ったポントス人のフィロン・クテニディスのポントス観についても可能な限り分析し反映したい。 ここで得られた成果を学術論文や口頭発表の形で報告する予定であるが、特に平成29年度夏季にギリシアでの途中報告を行うことを予定している。
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Research Products
(6 results)